EVENT REPORT

情報過多時代の「分類」をめぐる課題――World IA Day 2017 Tokyo レポート

【著者】佐藤史

EVENT REPORT

情報過多時代の「分類」をめぐる課題――World IA Day 2017 Tokyo レポート

【著者】佐藤史

2017年2月に開催された『World IA Day』に参加した株式会社コンセントのサービスデザイナー佐藤史によるレポートです。ますます増加と多様化の一途をたどる情報に対して、どう対応し処理すべきなのかといった問題に、さまざまな観点でのアプローチが提起されています。

OVERVIEW

2017.02.18(土)

著者:
佐藤史(株式会社コンセント サービスデザイナー)

INDEX

  1. World IA Day とは
  2. 分類は、人間の先天的本能?——「ダイアグラム思考」
  3. 情報を抽象化・可視化する——「データビジュアライゼーション」
  4. ECサイトにおける情報管理の課題―「タクソノミー」
  5. そして、IA領域ではどんな課題が?
  6. 主観と客観の間を巡って

World IA Day とは

『World IA Day』とは、世界で同日に開催される情報アーキテクチャ( Information Architecture: IA )に関するイベントです。
IAの啓蒙と普及およびコミュニティ活動の活性化を目的とする IA Institute という国際組織が主催し、世界中のローカルコミュニティによって運営されています。
今年は2月18日に世界24ヶ国・58の都市で開催され、日本では例年開催している東京に加えて、はじめて京都と沖縄で開催。3つの地域を結んで中継をストリーミング配信しました。

さて、『World IA Day』は毎年世界共通のテーマを設けて開催しておりますが、日本ではさらに独自のローカルテーマも設けております。2015年は「人びとを幸福にするIAの身体性」、2016年は「いまフィルターバブルを考える、これからの IA の役割とは」をテーマに開催しました。そして、今年2017年は、”Information Strategy and Structure”というグローバルテーマのもとに、「いま改めて考える『分類』」というローカルテーマを設けて開催しました。
情報がインターネットを通して、日々更新され、増え続け、そして次々と流されていくいまの時代。我々は情報をどのように分類すべきなのか、そしてそもそも情報を分類するということにはどんな価値があるのか等を、それぞれ専門領域が異なる以下の4名のスピーカーから話題提供いただき、最後に会場の参加者を交えてディスカッションが行われました。

  • 三中信宏氏(国立研究開発法人農研機構・農業環境変動研究センター ユニット長)
  • 矢崎裕一氏(合同会社ノーテーション)
  • 池田龍馬氏(楽天株式会社)
  • 長谷川敦士(IAAJ / 株式会社コンセント)

なお、イベント自体は約5時間という長丁場だったため、本稿だけで、すべてのプレゼンの内容を詳らかにお伝えすることはできないのですが、ここでは、サービスデザイナーとして UX や IA に携わる個人の視点から、特に興味深かった点を中心に、私自身がどう理解したかも交えつつ、内容の一部をご紹介します。

分類は、人間の先天的本能?——「ダイアグラム思考」

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冒頭は、生物学者でもある三中信宏氏から「ダイアグラム思考——分類と系統の世界観」と題したプレゼンです。
三中氏は、生物学、考古学、言語学、遺伝子学などさまざまな学問分野における「分類図」と「系統図」を次々と紹介しながら、それらを通してみていくことで、そもそも人間には分類する・系統をたてるという原初的な欲望が存在することを指摘。しかしそれは時には、人間という主体からの押し付けにもなりうる、というユニークな見解を述べられました。また一方では、人間が主体的に分類しようとするのは、「分けられるべきものがそこにすでに存在する」からでもあるし、世の事象や物事はどんなものでも分けようと思えば分けられる、という視点も併せて述べられました。
そして、そのような「分類」と「系統」に対する考え方は、地域ごとのローカルな文化的背景等によって発現の仕方に差異があり、たとえば、日本人はローカルな個別情報のコレクションが大好き、東アジア圏は分類に対し普遍的な原理は口に出さない等、特徴のようなものもあるらしいです。
分類と系統つまり情報設計に対する人間の根源的要求? 私にとってははじめて耳にするテーマであり、非常に新鮮な話題でした。
なお、三中氏は、プレゼンスライドの中で、遺伝子の塩基配列、アイヌ語族の言語系統樹、南方熊楠の『南方曼荼羅』など、「分類図」と「系統図」をたくさん紹介されました。ちなみに、私も、歴史や民族学には興味があり、関連する書籍を読んだり博物館に行くことが大好きなのですが、ひょっとしたら情報設計という行為には、このような人間の健全な知的好奇心を促す効果もあるのかな? と考えたりしてちょっと楽しくなりました。

情報を抽象化・可視化する——「データビジュアライゼーション」

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続いては、デザイナー/アーティストとして情報の視覚化に関する様々な作品を手がけられている矢崎氏から、「ネットワーク時代のデータビジュアライゼーション」と題してプレゼンをしていただきました。プレゼンを通して矢崎氏は、人の暮らしや社会において、データを可視化するということにはどのような価値があるのかを、ご自身の作品を紹介しながらわかりやすく説明されました。
まず、データビジュアライゼーションとはなにか? 詳細だが膨大な量のデータは生のままだと人の記憶に残りづらいが、それが抽象化・可視化されることではじめて人に伝わる「情報」になり、さらに「情報」は受け取る側の「経験」と一体化することで「知識・知恵」として人々の記憶に残っていくものになる……。データビジュアライゼーションとはこの過程のうち、データを抽象化・可視化するための行為であり、データを分類し系統立てて整理する情報設計とは似ているようで異なりますが、「情報をわかりやすく伝える技術」という部分は共通している、と私は理解しました。
しかし、ビッグデータという言葉に代表されるように、人間が触れて扱うことのできる情報はどんどん膨大になってきます。そのような時代においてデータビジュアライゼーションという行為にはどのような価値があるのか? 矢崎さんはいくつかの視座を紹介されましたが、私はその中でも特に、「複数のデータを掛け合せてみることで新しい指標が見出されることもあること」、「おのおのが抱く主観的な視点を共有することで価値判断の軸をたくさん持つことができること」の2点に感銘を受けました。また、「多くの人が利用する図書館では、本を十進分類法で分類しているが、もっと今の時代に合った分類があるのでは?」と矢崎氏が提起した問題は、情報が多様化する時代においてとても興味深いテーマだと感じました。
ちなみに、私自身はサービスデザイナーそしてワークショップデザイナーとして、多様な価値観と意見そして生活背景を持つ人同士を相互理解や合意形成に導くことを仕事のひとつにしていますが、そういう場面において、データビジュアライゼーションというものには大きな可能性があるのでは? と感じました。

ECサイトにおける情報管理の課題―「タクソノミー」

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次は、楽天で商品データ管理プラットフォームの戦略策定に携わっている池田龍馬氏から
Taxonomy in Business”と題したプレゼンです。冒頭で池田氏は自身のことを「私はタクソノミストです」と紹介することがあると話されました。日本ではまだ耳慣れない単語かもしれませんが、「タクソノミスト」とは、分類という行為に対する科学的な実践者であり、特に、定性的なものを主観ではなく科学的に扱って分類するプロフェッショナルであると私は理解しました。企業の情報管理に対する重要性が高まっている現在、アメリカでは歴とした職業名として浸透しつつあるようです。
池田氏はこのプレゼンを通して、EC サイトの情報設計を行う現場で直面している様々な課題を紹介されました。
たとえば、皆さんは EC サイトで商品を探すとき、「クッキー」と「ビスケット」は別々のカテゴリにあるべきだと考えますか? 「カルピスソーダ」は「炭酸飲料」「清涼飲料」のどちらのカテゴリに属するべきでしょうか? その違いはなんでしょうか? また、サイトを閲覧するユーザーの視点からみたわかりやすい分類と、企業にとってふさわしく管理しやすい分類は異なってくるかもしれませんし、一概に何でも細かく分類すればわかりやすくなるというものでもありません。だとすればそのバランスをどう図るか?
そのような課題に直面する中、企業側がサイトを管理するためのタクソノミーと、ユーザー側が閲覧するためのタクソノミー、このふたつを分けて考えることも大事であるという考えを述べられました。EC サイトの情報設計は、私も普段の仕事で携わることは頻繁にあり、ユーザー側からみた、わかりやすさのプロとして「人間中心設計専門家」を名乗っておりますが、ユーザー視点だけではなく、企業側の視点や社会的習慣の変化、さらに文化間における認識の違いに対しても日頃から意識を働かせていかないと……と感じ、とても参考になりました。

そして、IA領域ではどんな課題が?

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さて、ここまでの3名のスピーカーからのプレゼンを改めて整理してみます。
まず、太古より人間は多様なものごとを分類し系統立てることで進化してきた(三中氏の話より)。しかし、人々の生活文脈や価値観が多様化する現代社会で、人は分類という行為について新しい課題に直面しており、そこではどのような視座を持つべきかを、矢崎氏は社会およびデザイナーの視点から、池田氏は企業特にサービス提供者の視点から、それぞれ提言されたと私は理解しました。それを受けて最後に、ずばり IA を職業とする弊社代表の長谷川からのプレゼンです。
長谷川は、IAの提唱者であるリチャード・ソウル・ワーマン(Richard Saul Wurman)による「LATCH」という情報分類の基本的枠組みを紹介し、そのなかで、Location(位置)、Alphabetically(五十音)、Time(時間)、Hierarchy(階層)という4つの客観的分類法に対して唯一、Category(カテゴリ)という分類法だけが主観的であり、他4つの客観的分類に比してバランスを保つ役目を果たしていることを説明し、IAという仕事では、これら客観的分類と主観的分類をどう使い分けるかは課題の1つであると述べました。
そして次に、池田氏のような企業内の専門家が考える「タクソノミー」という分類に対して、ユーザー自らがインターネットの情報に、複数のタグを自由に付け加えて使いやすいようにしていく「フォークソノミー」という分類が存在し、この2つはトップダウンとボトムアップの関係にあり、いかに後者を前者に反映させていくかが今後考えるべき課題だと述べました。加えてさらに、多様で変化の激しい時代において、情報そのものをどこまで先の未来を見通して分類するべきか? テクノロジーが急速に進化する現在、そもそも人間が分類すべきなのか? という問いにまで踏み込んでプレゼンを終えました。

主観と客観の間を巡って

さて、長谷川からの問題提起を受けて、最後に、今回プレゼンをしていただいた3氏と長谷川、そして会場の参加者を交えてのオープンディスカッションへと移りました。
ここでは、私が聞いていて特に印象に残った3つの話題について紹介したいと思います。

・トップダウンのタクソノミーと、ボトムアップのフォークソノミーのバランス
これは長谷川が自身のプレゼンで提起した課題の1つでしたが、オープンディスカッションの場では、そもそも個人による認識の差異をカテゴリという概念だけで吸収すること自体がむずかしく、そこを補うのがフォークソノミーであること。そして、分類自体も流行に左右されるため、一時的な時間の断面でしかないことが確認されました。また、三中氏の専門分野である生物学の領域では、過去の起源を遡ることで未来を予測・察知することも行われており、これは池田氏の仕事である商品分類の世界でも、たとえば今後生まれる新しいカテゴリを予測する等の目的に応用できるのは? という先進的な問いかけもされました。

・分類の視覚化と可読性
情報は客観的に分類されていても、結局、ユーザーに伝わらなければ意味がありませんが、このとき、「見た目」をどうするかが課題になります。そこでデータや情報を「複雑すぎない」「いい感じに」「読める」ようにするには、どうチューニングすべきなのか? という問いが提起されました。これは、どの位のリテラシーの人が接するものなのかを想定してつくることが大事である反面、「深いところまで読むためには読み手も勉強すべき?」「読み手のリテラシー自体も100年前と比べて変化した?」という興味深い見解も話題に上がりました。

・アルゴリズムや機会学習による分類の精度は?
人工知能が人間に取って替わるのでは? という話題も最近は巷でよく交されるなか、これは多くの人の興味をひく話題であり問いかけだったかと思います。しかし、機械は「分類」はできてもそれにラベルを与える(分類名を考える)ことまではできないだろう、ということがこの場での結論でした。また、人間には物事に「名前をつけたい」本性が備わっていることや、分類も時流に合わせて変えていくことが大事という話も交されました。

以上、私からの報告はここまでとなります。
冒頭にも述べた通り、本稿は私個人の視点で興味深いと感じた点を中心に紹介しましたが、この記事を読んでさらに興味を持たれた方は、ぜひ各プレゼンテーターのスライドと、当日の動画を併せてご覧になってください。

 

■参考

佐藤史が所属する株式会社コンセントのService Desgin Div.の活動については ” Service Design Park ” をご覧ください。

Service Design Park 

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