EVENT REPORT

情報の倫理
――World IA Day 2016 Japan(Tokyo) vol.4 5/6

【スピーカー】櫻田潤、松浦茂樹、坂田一倫、長谷川敦士

EVENT REPORT

情報の倫理
――World IA Day 2016 Japan(Tokyo) vol.4 5/6

【スピーカー】櫻田潤、松浦茂樹、坂田一倫、長谷川敦士

2016年2月20日(土)、amu にてWorld IA Day 2016 東京が開催されました。今回のグローバルテーマは「 Information Everywhere, Architects Everywhere 」、そして日本では「いまフィルターバブルを考える、これからの IA の役割とは」とローカルテーマを題してさまざまなプレゼンテーション、議論が行われました。ログレポート最終回はオープンディスカッション「フィルターバブルと企業倫理」です。当日の発表者の長谷川敦士、櫻田潤、松浦茂樹に加え、Medium 日本代表アンバサダーの坂田一倫と、山本郁也事務所代表の山本郁也が登壇しました。議論のテーマごとに、レポートを分けてお届けしていきます。

※このセミナーは2016年2月に行われたもののため、文中の数字やサービス構造等に関しては、最新ではない可能性がございます。

OVERVIEW

2016.02.20(土)

スピーカー:
櫻田潤、松浦茂樹、坂田一倫、長谷川敦士

INDEX

  1. ビジネスと編集を分けるべき理由
  2. 情報に携わる職の倫理
  3. 広告の現状
  4. 業界で取り組むべき倫理形成

ビジネスと編集を分けるべき理由

(この記事は 1/62/63/64/6のつづきです)

山本:その一方で、やはり受け手のメディアリテラシーをあげるだけではなくて、情報をコントロールする側にいる企業のわれわれが、受け手のメディアリテラシーがまだ上がっていない前提に立って、どういうことを考えてやっていくべきかという活動が重要だと思うんですね。そうした活動が、企業としての倫理や規範につながってくると思いますが、やはり資本主義のビジネスの流れで語られてしまうと、「こっちのほうが儲かるよね」という話でしか進まない。ただ、その倫理や規範みたいなものは、ビジネスとはまた別のレイヤーで語られなければいけないと考えています。
その中で、たとえば SmartNews は公共性を重視しているというお話もありましたが、今後さまざまな企業が自分たちの情報をコントロールする側だと自覚し、責任を持ってやっていくためにはどうしたらいいか考えていきましょう。ただ、いくら深めていっても結局マインドセットが重要なんだという精神主義的な方向に陥りがちだと思うので、では、その公共性や倫理観を知るために具体的にどういうことをしていったらいいのかを話しましょう。まずは NPO 支援もしている松浦さん、いかがですか。

松浦:まず前提の部分で先ほども少しお話しましたが、広告を出すような企業の場合には、本質的には部隊からなにから、すべて分けるべきですね。アメリカがいいという話ではありませんが、アメリカのメディアは組織体制できっちり分かれている。だから倫理観も含めて、組織的なレベルで取り組んでいると言い切るくらい、前に出したほうがいいかなと思います。外資メディアを1、2度経験すると、そういうことを痛感しますね。SmartNews でももちろん、広告の部隊とアルゴリズムの部隊は分かれています。広告の倫理だけで言うんだったら、ある企業が不祥事を起こした、でもスポンサー企業だからどうしようという事態のときに「じゃあ取り上げるなよ」という意見は必ず挙がります。そうした事態で記事を出せるかどうかを考えると、やっぱりビジネスと編集は分離しなければいけません。たとえば、SmartNews がなにか失敗したとしましょう。でも SmartNews は特にそんなことは関係なく、アルゴリズムによって記事は表示されます。古くは livedoor 事件で堀江貴文さんが逮捕されたときの livedoor の編集部は、社内の模様などをどんどん livedoor ニュースで発信していました。やはりビジネスと編集がきっちり分かれていることは大事だと思います。

櫻田:NewsPicks も、オリジナル記事をつくる編集部と、広告の編集コンテンツをつくるブランドデザインチームは分かれています。また、僕に関していうと、インフォグラフィックはオリジナルと広告、両方をつくっています。そのときについてもらう編集者もそれぞれ分かれていて、特に広告のグラフィックをつくるときには、オリジナル記事をつくるときとは考え方を分けてやるようにしていますね。そこは SmartNews と共通しています。

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情報に携わる職の倫理

長谷川:メディア企業という立場は、ポリシーや誇り、社会的意義をビジネスとしてサステナブルに両立していくことが、企業として整理がつきやすい。もちろん実際にはビジネスとして成立させるにあたっての問題はありますが、今回のテーマである倫理観や規範について、整理しやすいと思います。ただ、たとえば僕は職業インフォメーションアーキテクトとして、クライアントワークをやります。また、坂田さんも Medium とリクルートを兼任している。リクルートはメディアと広告をミックスしてビジネスを最適化させるという話で、まぁリクルートを代表して話してもらうのは、なかなか荷が重いかと思いますが……。

(会場笑)

坂田:リクルートの歴史をね(笑)

長谷川:たとえば僕にもクライアントという依頼主がいて、その人は情報を届けたいと思っているので、それを最適化するのがプロとしての仕事です。ただ、そのときに届けるべき内容が、僕自身が100%共感できているのかという話や、あるいは僕が伝えちゃいけないと思っているものと触れ合ったときに、どうすべきかという現実問題には、割とよく直面します。
たとえば、先ほど櫻田さんが紹介された事例の中でいえば、ゼネラル・エレクトリックの事例はスポンサーがついていますが、インフォグラフィックで伝えるべきニュアンス、なにを強調すべきかというのは、編集者ではなく櫻田さんご自身もデザイナーとして判断する。スポンサーの意向をインフォグラフィックでデフォルメするというか、適切に伝える役目になるわけですよね。そのときに、果たしてどこまでどう倫理観を持つべきかは、非常にむずかしい問題です。極論すれば、われわれはむずかしい問題を伝える専門家ですし、どんな情報であっても伝えることによって価値を出すのが職業デザイナー、職業インフォメーションアーキテクトとしての役割だとは思っています。
でも、伝えるべき内容については、僕自身も悩みながらやっている部分もあります。やはりビジネスのコミュニケーションにおいて表面的に依頼されることもあって、そうすると本質的になにを伝えたいのかと、遡って問いを発します。その問いがないと判断ができず、でも言われたことを右から左に伝えるのでは、自分自身の効果も最大化できません。なにを伝えたいのかという問いに戻していくと「実は伝えるべきものがなにもなかった」ということが判明することもある。だからそういう問いを発して、伝えるべきものをクリアにしていくことが、伝えるべき人の責任としてあります。
また、僕は社会的に悪になると思われるようなことを伝えるような依頼を受けたことはありませんが、たとえば戦争に突入していこうという時代には、国民に対してそういう告知をしていくコミュニケーションやデザインも、歴史上にはさまざまな国でありましたよね。そういうときに、デザイナーはどこまでなにを主張すべきでしょう? あるいはそれは程度問題として、線引きを自分一人が考えられるようなものなのか。僕自身が悩んで、模索しているところです。

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櫻田:今、スポンサードコンテンツをやっている中で一つ幸いだと思うのは、ああいうコンテンツをつくれる人がそれほど多くいないので、僕の意向が相対的に結構通りやすい。その上で、広告のほうの編集者がついていると、クライアントと一緒に打ち合わせしますが、やはりクライアントはすぐにスペックの高さ、値段の手頃さ、製品の優れた点などを言いたがってしまう。僕は、それに対して「ユーザーはもうそういうのよりも、ストーリーが聞きたいんですよ」と話したりします。
たとえば、クライアントの会社が、自社は世の中にいろいろな革命を起こしてきたと言いたい。なので「なんとか革命」という言葉を使いたいっていうオーダーがあった場合、革命という言葉は使わない方が良いと提案します。「革命」というのは、つくり手・売り手の論理なので、この(今握っている)マイクの音質が「革命だ」と言われても、受け手はすぐには興味を持てない。でも、このマイクがどんな経緯でつくられたというようなエピソードがあれば、多少なりとも情報として価値が出るなと思えます。スポンサードコンテンツに関しても、つくり手としてはそうしたストーリーがないものはつくりません、というスタンスで実際にやれていますね。

広告の現状

松浦:広告には、ネイティブ広告(メディアの記事と同様の形式で掲載される広告)というワードがありますが、SmartNews の広告部隊では広告を、「 Ads as Content 」(コンテンツとしての広告)といういい方をしています。SmartNews の記事一覧ページには、インフィード広告、つまり間に差し挟むような広告もあります。そうした広告でも SmartNews の UI/UX に馴染んでいるかどうかを考えているんです。たとえば、タイトルに【衝撃!!!!】と付いているような広告が入稿された場合、広告審査チームが SmartNews 全般のブランドを意識して、「そういう記事タイトルはないですよね」と、全部はねのけます。画像も同様で、今ニュースのサムネイルの上にテキストが載っていることはほぼない状況で、たとえば画像の上に赤文字でいろいろキャッチフレーズが載っているようなごてごてのものが入稿されてきた場合、SmartNews のチャンネルに載っている記事の一覧性からすると、違和感たっぷりです。そういうものは広告審査基準として外す、という担保をする形にしてますし、僕自身もある意味では編成側の立ち位置から、「なんでこんな表現しているんだ」と止めています。

櫻田:インフォグラフィックに関して言うと、今は結構大事な時期だと思っています。新しい広告の形でもあるわけで、そして先ほどのプレゼンでもお話したとおり「インフォメーショングラフィック」ですから、インフォメーションのないグラフィックでは意味がない。インフォメーションがあるからこそ、ふつうの広告と違うと言えるのだと、僕が言っていかなきゃいけないなと思いました。

山本:たとえばビックリマークがいっぱいあったほうがクリックされるかもしれませんが、やはりわれわれが専門家として、そんなものは SmartNews の誇りにかけて掲載しないんだという話だと思います。ネットメディアに限らず、ネット上につくられていくサービスや情報建築物が増えていき、つくるほうの敷居がどんどん下がってきたので、そうした違和感のある広告が増えてくる可能性があります。このような状況において、企業としての倫理観、誇りのようなものを持つ会社が増えることは、非常に重要だと思います。

業界で取り組むべき倫理形成

山本:先ほどの長谷川さんの話を聞いて、これは本当につくっていいのかと自問自答し、それを繰り返せる企業や人を増やすことを考えていくべきだと思いました。ただその中で、われわれがそう考えたとしても、まずはそのような意識にシフトする必要がある会社も多くあると思います。そういう会社、そういう人たちが実際に倫理観や誇りを持つために、われわれになにができるでしょうか?

長谷川:今、IA に関して流れてきているツイートの中で、たとえば「アーキテクトの設計者倫理は、この設計は社会の敵、社会に仇なすものではないだろうかとつねに自制するようなものであるべきだと思う」といったものがあります。まさに程度問題がいろいろあって、たとえば SmartNews というメディアには SmartNews という思想があり、それで社会に立場を持っている。SmartNews 自体が社会においての一つの設計思想の体現なんですよね。
NewsPicks も SmartNews も、企業の中にはいろんな人がいるけれど、メディアとしての人格があるので、企業の中の人の総意、あるいは CEO のディレクションで設計思想が構築され、社会からどう評価されるか、という話になりますよね。それに対して、その企業の個人、たとえばデザイナーなど一人ひとりは、各プロジェクトの中で設計をする立場にあります。そのときの評価、判断として、どの程度まで商業主義の片棒を担ぐのを認めるかというのは、おそらく多くのデザイナーレベル、個人レベルでみんな悩んでいると思います。

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ただ、それを商業っぽいものは嫌だと言っていたら仕事にならない。商業主義的と呼ばれるビジネスの場から離れれば離れるほど、自分にとって望ましいコミュニケーションだけをやっていける。でも、それでは社会で生きていくためのお金を稼げない。その部分についての倫理観みたいなことっていうのは、会社や仕事の中でたぶんみんな個人レベルでは言い出せないと思うんですよ。思っていても、言葉にすると青くさくなってしまうので。
そうした際に、業界団体レベルまでいくかわかりませんが、たとえば、「(今日のような) IA の集まりとしては、こうあるべきだと思っています」という立場で提言することが一つの拠り所になるのでは、という観点を、今日話している中で持ちました。そのような提言が青くさすぎるのではなく、本当に社会の中で意味を持つためというか、社会の健全な発展に寄与するために、どうあるべきだと思うか。スマートニュース(株) や(株)ニューズピックスは、そういうところはもう越えたうえで企業として機能しているので、設計に携わる人に、ハイレベルなポリシーが成立していると思います。
仮にビジネスが立ち行かなくなると、企業ポリシーのレベルが下がってしまうかもしれない。あるいは、たとえば個人でデザインを請け負っていると、自分で思っているよりも倫理規定を下げないと仕事にならないという状況が世の中には起こり得ます。なので第三者的に「このあたりの倫理規定はみんなが目指すべきものだよ」というように提示されないと、なかなか自ら倫理に言及することはできない。「こういう業界のガイドラインがあるから、自分はそれに批准しようと思う」という言い方のほうが、「これは自分が信条として思っているから受けられません」と言うよりも、言いやすいということもあります。もちろん議論の余地はありますが、今日のような場をスタートポイントにして、業界に提示できるような活動組織をはじめるというのもありなのかな、と個人的には考えています。

松浦:2015年にはステマ(ステルスマーケティング)騒動があって、Yahoo! さんがステートメントを出されたりしていましたよね。今でもステマはありますが。それで言うと、メディアでは JIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)*1という団体もあるのですが、そこも含めて倫理規定をちゃんと整備しておかないと、 SmartNews も  NewsPicks もポリシーを高く掲げてやっていますが、すぐに低下していってしまいます。企業レベルだけでなく、業界レベルで考えてつくっていく必要がありますよね。また、業界レベルでの検討に至るには、やはりコミュニケーションが絶対に必要になります。各メディア間において、「ステマとかだめだからね」という戒めの話も含め、個別のコミュニケーションをしていくべきです。私たち SmartNews でいえば、最初の媒体を集めて来るときと一緒に、個別のメディアさんに促すことも含めて、だいぶ青くさくても、真正面からちゃんとやることが大事だと考えています。そういうことを考える仲間を増やすのも大事。とにかく、なにをおいてもコミュニケーションが最優先かなと思っています。

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山本:櫻田さんはいかがですか?

櫻田:長谷川さんの話を聞いていて思ったのは、クリエイティブ・コモンズ*2のイメージがちょっと浮かびました。ライセンスのランクを組み合わせで選べますよね。やっぱりゼロか100の選択じゃないことが必要で、ビジネススタイルでいくよという人がいてもいいと思うんです。それを許すために、このライセンスマークを記していればこういうスタンスなんだ、と判断できるというような世界観なのではと思いました。

山本:確かにローレンス・レッシグ*3もバランスという言葉を大事にしていますよね。ビジネスと誇りと、どうバランスを取っていくのかが重要だと思いました。長谷川さんがおっしゃった倫理規定を考える動きも、建築だったりさまざまな産業で行われていることだと思うんです。インフォメーションアーキテクトも、成長してどこかの時期に差しかかったとき、自分たちを見つめ直すという活動が必要なのだと感じました。

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*1 JIAA (一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)
インターネット広告(モバイル広告含む)のビジネスにかかわる企業(媒体社、メディアレップ、広告会社、調査会社、システム・サービス会社、制作会社など)が集まり、インターネット広告市場の健全な発展、社会的信頼の向上のために、ガイドライン策定、調査研究、普及啓発など、多方面にわたる活動を行っている。

*2 クリエイティブ・コモンズ
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)を提供する、国際的非営利組織。CC ライセンスとは、作品を公開する作者が「この条件を守れば、私の作品を自由に使って構いません。」という意思表示をするための、ツールとされている。作者がCC ライセンスを利用すると、著作権を保持したまま、作品を自由に流通させられる。

*3 ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig
クリエイティブ・コモンズの創始者。アメリカの法学者で、ハーバード大学法学教授、スタンフォード大学ロー・スクール教授および同大学のインターネット社会研究所を歴任。著作権の拡大に批判的な立場であり、さまざまな活動を行っている。
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(2016年2月20日@ amu )

続きは 6/6 IAの役割

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