EVENT REPORT

フィルターバブルとIAへの意味 1/2 長谷川敦士
――World IA Day 2016 Japan(Tokyo) vol.1

【プレゼンター】長谷川敦士

EVENT REPORT

フィルターバブルとIAへの意味 1/2 長谷川敦士
――World IA Day 2016 Japan(Tokyo) vol.1

【プレゼンター】長谷川敦士

World IA Dayは2012年にスタートした全世界同時開催のIA(情報アーキテクチャー)のイベントです。今年は世界、6大陸、28カ国、57都市で同時開催されました。2016年の グローバルテーマは「Information Everywhere, Architects Everywhere」そして日本のローカルテーマは「いまフィルターバブルを考える、これからのIAの役割とは」と題してさまざまなプレゼンテーション、議論が行われました。ログレポート第一回は、長谷川敦士氏による第一部プレゼンテーション「フィルターバブルとIAへの意味」の前半をお届けします。

OVERVIEW

2016.02.20(土)

プレゼンター:
長谷川敦士(IAAJ/株式会社コンセント代表取締役/インフォメーションアーキテクト)

INDEX

  1. フィルターバブルとはなにか?
  2. 知らずに行われる「取引き」
  3. 代理エージェントとしてのフィルター
  4. フィルターとビジネス
  5. フィルターと情報、行動
  6. フィルターとソーシャルネットワーク
  7. フィルターそれ自体は見えない

フィルターバブルとはなにか?

「フィルターバブルとIAの意義」ということをお話をさせていただきます。話の概要としては、フィルターバブルというものはなにか、どういうことがいま起こっていて、なぜ問題なのかということ。そして、われわれ情報のデザインやIAに関わる立場の人が、それについてなにを考えるべきなのかということです。

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まず、フィルターバブルとはなにか。『閉じこもるインターネット』(早川書房)という本の著者イーライ・パリサーが挙げているちょっとしたエピソードがあります。ほぼ似た属性の二人のGoogle検索結果が異なるということです。たとえば、政治的な問題が絡むトピックを検索をしたときにアクセスする国が違ったりすると、検索結果が1億8000万件の人と1億3900万件の人とでわかれているということが起きます。

5108199890_b559697c6a_o イーライ・パリサー氏

これはなんで起こるかというと、自分の主義主張やポジション、国などを検索エンジン側が判断し、パーソナライズと呼ばれていることを行っていることが原因です。こういう個人の属性や主義主張のようなことに検索のほうが合わせてきてしまうことを、イーライ・パリサーは「フィルターバブル」と呼ぶべき現象と定義しました。インターネットにフィルターを仕掛け、あなたが好んでいるらしいものや実際体験したこと、あなたのような人が好きなことを観察して、それを元に推測する予測エンジンが、自分の履歴を元に検索結果を勝手に変えてしまうということが起きています。次になにを望んでいるのかを常に推測し、推測の間違いを機械学習によって修正して、どんどん精度を高めているということが起こっている。その結果、自分の周りに情報のフィルターができて、この中に閉じ込められてしまうということについて「フィルターバブル」という造語が提示されました。

では、フィルターバブルのなにが問題か。結論から述べてしまえば、見えている情報が個人独自にフィルターされたものに過ぎず多くの人に共有された情報ではないということです。たとえば、毎日平日夜7時のテレビ番組が翌日のみんなの共通の話題になっていたけれど、みんな自分にフィルターされたものを見ているから、共通の体験というものが減り、各人が孤立するというような問題などがあります。あと、(そうしたことが各人からは)見えないことです。このことが、ネットのフィルターバブルの中である種一番大きな問題かもしれないところで、エンドユーザー(使っている人)が自分の情報がそのようにカスタマイズされているものだということにすら気づかない。たぶん、ふつうの人は自分の情報と隣の人の検索結果が違うってことを知らなくて、みんな同じ情報が見えていると思っている。自分のほうで選んでカスタマイズするのではなく、見ているサイトやサービスなどがそれを行っているので、これこそが本質的な面ではあるのですが、ふつうになにも考えずに使っている上では、自分の選択の余地がなくなることは避けられない。まずは、こういったことが現状の問題として語られています。

パーソナライズされたフィルターの具体例でいえば、Amazonのレコメンドとか、Apple MusicのFor Youのようなわかりやすいものもあれば、Googleのように検索結果を自分の履歴や情報に合わせてカスタマイズしている、といったようなことは、フィルターされた結果です。パーソナライズにより、世界というものが自分個人に合わせたものとして見え、結果的に自分の好きなもの、よく見る情報、人、アイデアに近いものだけががどんどんレコメンドされてくる。見たくないもの、嫌な情報、あるいは避けたい話なんかは目にしなくてもよくなってしまう。いわゆる天動説の世界と例えられたりしますけど、自分のほうが情報に歩み寄っていろんなものを探しまわるのではなく、情報側が自分に合わせて世界をつくってくれている。自分の興味関心や願望を反映したようなもので世界が構築される、ということが起こっていくだろうと予測されています。

知らずに行われる「取引き」

フィルターバブルというものをユーザー側が享受するときには、その対価として支払うべきものがあります。ミクロレベルでは、フィルターを使う人が直接的に支払う代償として、個人の履歴の情報を提供しているということが起きている。あるいは個人の新しいものへの接点が減っていく……つまりセレンディピティーのチャンスが減っていくということがあります。

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ただ、そういうこと以外にも、実はマクロ社会的にも、支払うべき対価はあるのではないかということが語られています。フィルターバブルの中で生活する人が増えていくと、ある特定の自分に心地のよい情報に囲まれている人が多くなっていく。そうすると、みんながみんないろんな情報を元にものを判断するのではなく、自分の周りの情報だけで判断する人たちがいっぱい生まれてくる社会になるのではないか。そういう社会になったときに、社会の意思決定の場面などにおいて―そこで民主主義という言葉が出てきたりするわけですけど―どういった影響を及ぼすのか実はまだわかっていません。フィルターバブルによってできた社会というものがそこまで問題になるのかどうかも、わかりません。ひょっとしたらまったく問題にならないかもしれない。なんなら、別にネットのレコメンデーションが流れる前から、なんらかの形でそういったフィルターがあったわけなので。いま、果たしてそれを問題にすべきかどうかということも議論する必要があるかもしれません。ただ、ネットのフィルターバブルというものが一人ひとりにカスタマイズされた形で、見えないところでフィルターがかかるというのはやはり大きな影響があると考えられています。

そして、フィルターバブルによって起きているもう一つのことは、人がフィルターバブルの中に閉じ込められ、新しい洞察や学びに遭遇するチャンスが減っていくということです。つまり、自分が予測するもの、好きなもの、関係するものだけに触れることになるので、いろんな知らなかったものに触れるチャンスが減っていく。あるいは、重要だが複雑であったり、不快な問題、考えるのに時間のかかること、都合の悪いことなどが視野に入らず、自分の周りは心地よく簡単に理解できるものに強化されてしまうというようなことが起こってくるんじゃないかと。

さらに、パーソナライゼーションということには、一種の取引きがあると考えることもできます。企業がパーソナライズを行う場合、たとえばGoogleがパーソナライズするということは、そこに対してユーザーはなにかを与えている、一種の取引だと考えることができるということです。ユーザーはフィルタリングのサービスを受ける代わりに、その情報を得ることでなんらかのメリットがそこに存在すると。それによって、企業と個人との一種の取引きがそこには発生しているととらえることができるのではないか。こうしたことが、フィルターバブルと言われている話の全体像です。

代理エージェントとしてのフィルター

このフィルターバブルというものがいまなんで問題になっているのか、どういう背景から生まれるかというのを、トピックとしてご紹介します。

フィルターバブルということが言われる前に、多すぎる情報に対して、いかに選択を行うのか、ということをMITメディアラボのニコラス・ネグロポンテ(*1)が考えました。これは「どのテレビ番組を見ようか問題」などと呼ばれています。自分側についたエージェントが自分のオーダーに従い、秘書のようにニュースや新聞から情報を拾ってくるということ、つまり自分の新聞、自分向けのニュースをつくるようなことを、ネグロポンテは Daily me と提唱したんです。

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この考えに従って、MicrosoftやAppleはVOGとか、Newtonといったようなコンセプトをつくって、実装しようとしました。これはまだインターネット以前、つまり20年以上前、20年くらい前の話なので、当然情報自体がだいぶ弱い……ネットじゃないのでなんでも情報を取ってくるということもできないし、マシン側のスペックも全然、(実現できるレベルには)達していませんでした。アルゴリズムアーキテクチャーも不足していたので、世間からは酷評されてしまう。それにはただ技術的なこともあったのですが、自分の代行者としてのエージェントが情報をフィルタリングしてくれるという、自分に寄せたエージェントというのも、実は現在でさえうまくいっていません。いまやパーソナルなエージェントというものは自分側ではなく、それぞれのサイト側にある状況になっている。つまり、自分の方にそういう情報のフィルターをかけるのではなく、サービスの運営側があなた向けに情報をフィルターしてくれるようになりました。

これは先ほど登場したネグロポンテの構想とは別で、自分がコントロールしてないところでのパーソナライズというのが、いま主流の現象として起きているということです。傾向的な情報がわかるということについて、どんどん機械学習して賢くなっていってる、という状況です。

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*1:ニコラス・ネグロポンテNicholas Negroponte1943年 – ) MIT(マサチューセッツ工科大学)の創設者。Wired Magazineの最初の出資者でもあり、創刊当初は連載を執筆していた。その中で、技術革新によって個々人は自分の趣味嗜好にあった情報を得られるようになると予言した。
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フィルターとビジネス

こういったことを背景として、AmazonのCEO ジェフ・ベゾスは、「(アメリカの小説家の)ジョン・アーヴィングがお好きでしたね。でしたら、こちらの新人作家はどうでしょうか」みたいに、なにかを好きだといっている人に対して他のものをレコメンドするエンジンをつくれば、すごく有用だし商売になるだろうと考え、Amazonを立ち上げました(*2)。この当時は、機械学習という、どんどん失敗はするんだけれども、(むしろそれによって)学習を繰り返して精度が上がっていくようなアルゴリズムが、人工知能の分野において研究されていました。あとはサイバネティクスという、複数のシステムが連動して自律的に動くシステムを機構の中に取り入れることによって、精度を上げていけるんじゃないか。同時期にゼロックス社のパロアルト研究所で「協調フィルタリング」というテクノロジーが開発されていました。このあたりとの組み合わせに着目しました。

ジェフ・ベゾスも語っていますが、Amazonは、本屋や物販をやりたいというよりは、このパーソナライゼーションを行ったレコメンデーションや協調フィルタリングはビジネスになると考えたわけです。そのためにはユーザーの母数が増えていかないと機械学習もできない、精度が上がっていかない。でもそれが増えて、いろんなものを扱うようになっていけば、推奨結果自体がすばらしいビジネスになるだろうと考えた。あるいは今日の文脈にのせて言えば、うまくフィルターをつくればそれだけでビジネスになるだろうということです。実はAmazonというのはそこを狙ってつくった会社であり、Amazonといえばフィルターをともなうレコメンドというぐらいですよね。実際Amazonのおすすめでぼく自身もすごくいい本にいっぱい出会って、どんどん買って読み、むしろ新しい着眼点を得られたりしています。いまAmazonのそのもくろみがうまくいっているからこそ、今日のAmazonが、プライムサービスをやっていたり、ビデオ特典サービスをやっていることにまで発展している部分もあるといえる。このような機械学習するレコメンデーションを行っていくことで、Amazonが一世を風靡している。これはある種、フィルターバブルを考えるときには意識しておくべき視点だと思います。

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*2:「私たちはすべての顧客ごとに,店の飾りつけを変えたかったんです.私たちは顧客に対し,彼らの好み,過去の購買パターンの解析結果を説明し,顧客ごとに分けたホームページを作ることができます.もしもあなたがミステリーの大ファンだとしたら,私たちは3冊の最もホットな新刊と,あなたがこれまでに買ったうちの1人の作家の作品から,そのハイライトを見せることができるのです」(”Fast Time”誌インタビュー, “Face Time With Jeff Bezos “,Feb. 2001)
またベゾスは、次のようにも語っています。
「オンライン書籍販売を,小さな書店の時代に戻したいんです」「そのころの書店は,顧客自身のことをとても良く知っていて、『あなたはジョン・アービングのファンですよね。でね、これは新人の作家なんだけど,ジョン・アービングにすごく似ていると思うんですよね』なんて言えたんですよ」(『アマゾン・ドット・コム』,P218, ロバート・スペクター著, 長谷川真実・訳, 日経BP社, 2000年7月.)
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フィルターと情報、行動

かたやGoogleは、商売するためではなく、ある意味真っ当な情報アーキテクチャーを考えるということで立ちあがったわけです。たとえば、GoogleのPageRankのアルゴリズムは、「多くのページから参照されるページは、有用性が高い」という「引用に基づく学術論文の評価」というシンプルな発想にヒントを得ているわけです。そういったもので順位づけをして、膨大な情報の関連性を見ていくと、そこには情報の有意性が見つかるだろうというアイデアで、Googleが立ち上がりました。この中でGoogleが着目したのは「シグナル」です。ユーザーがなにか行動するときに発信される信号に着目し、ページからページへのリンクや、ページ上のリンクの配置、リンクのサイズ、ページの古さなどの情報をもとに、シグナルというものを計測をしていく。これはページ側の情報ですが、ユーザー側の情報としては、場所やブラウザの種別、検索してからリンクをクリックするまでの時間、検索キーワードなどがあります。こういった情報を取得することで、行動特性や、年齢、政治的な傾向、性格、興味などを整理し、情報の選択を個人に合わせていく。Googleは、個人が発見しやすくするという思想を持ってパーソナライズを行っているわけです。結果的に、そこからより効果的な広告が生まれるわけですけれど。Googleが当初から現在まで考えているのは、基本的には個人向けの情報の整理をして統合することだと言えると思います。

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フィルターとソーシャルネットワーク

Google、Amazonと、もう一つ主要なプレイヤーで思想の違うものがFacebookです。Googleは情報をつないでいって、あくまでその情報の優先順位を見ているのに対し、Facebookは別の視点を持っていて、情報は別に見ないんですね。Facebookが見ているのは人と人とのつながりです。ソーシャルグラフといわれていますが、誰と誰がつながっていて、その中でどういう情報がやりとりされるのか。情報を見るのではなくて、人を見るという観点で情報を扱っています。その中で出てくるレコメンデーションや情報のフィルタリングを行うことも、あくまで情報ではなく、人と人との関係性から見ている。2010年に「どこでもフェイスブック」というコンセプトではじまり、Web全体を「ソーシャル」にするためにネット上のいろんなところに「いいね」をつけていく。Facebookの中にない情報もFacebookに取り込むような施策を行っていき、かつそれがソーシャルの中で誰がいいねしていて、シェアしたら誰がそれを見ているのかとか。Facebookがやったのは、そういった関係性を徹底的に見ていって、そこの関係性からフィルターをつくるであろう、情報のネットワークを内部的に持つということです。こういったことを元に、結局は広告ビジネスとしてターゲット広告という形で、ビジネスにも落としていくわけです。そこは両者とも特に、そこをゴールにしているわけではなく、自分たちがそれを継続していくためにこういったようなビジネスも行っていくということだと思いますけれど。Googleは先ほど申したように情報の持つ関連性の方を重視する。Facebookの方は人々の関係性の方を重視する。こういう体系でターゲット広告を行っているんですね。

フィルターそれ自体は見えない

こういう、Google、Facebook、Amazonといったわかりやすいところとは別に、実は裏側にももう一つ勢力があります。アクシオムという、有名なエンジンです。アメリカだと96%の人の情報を持っていると言われていますが、クレジットカードの支払い額とかそういったことの個人情報自体をどうこうするのではなく、ためることによって、たとえばアドネットワークに提供するとかそういったビジネスを行っているような事業者もあります。そういった人たちが個人の履歴という構造をどんどんためていくことで精度をあげていく。こういうようなGoogle、Facebookというようなその企業自体が情報をためているようなところ以外にも、そのことだけを目的にしているような存在もあったりとかしています。こういったところはたとえば、カヤックとかトラベルシティなどのアメリカの旅行の情報サイトは、チケットをその場で買う、販売代行というビジネスをやっていますが、ほかにも、その情報サイトでユーザーが行った検索のデータをアクシオムに販売するというビジネスを行っています。それが結果的には、別のアドネットワーク入っていって、ターゲット広告、リターゲット広告という形で表出してくるわけです。そういうような裏の存在というものもあったりする。昔はバナーの枠を直接買っていたわけですが、いまやビジネスの主流になっている行動ターゲティング広告の出し方では、見る人の属性に合わせて買うということができるようになってきました。これによって広告というものもジェネラルに、そのサイトを訪れたみんなが見えているわけではなく、あなたの履歴に基づいた広告が出てくるという世界がもう実現されている。これはいま広告だけですが、実はコンテンツを提供するような、たとえばメディアサイトみたいなところで見る人に合わせてコンテンツを出し分ける、というような構想も、今後ありうるという議論もされています。

(2016年2月20日@amu)

続きはこちら

フィルターバブルとIAへの意味 2/2 長谷川敦士――World IA Day 2016 Japan(Tokyo) vol.1

【そのほかのプレゼンテーション、ディスカッション】

  • 櫻田潤氏、松浦茂樹氏、坂田一倫氏、長谷川敦士氏:

1/6 メディアの信頼性を模索する
2/6 メディアの責任とは
3/6 コンテンツの役割と設計倫理
4/6 フィルターバブル時代を生き残るためのリテラシー
5/6 情報の倫理
6/6 IAの役割

 

【関連リンク】

・World IA Day 2016 Tokyo, Japan 公式ページはこちら

また、2015年度のWorld IA Day Japan vol.1のログレポートも あわせてお読みください。

「弱いIA」の可能性――World IA Day 2015 Japan vol.1 岡田美智男氏

 

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