EVENT REPORT

分かち合う料理
――Ovni元編集長 佐藤真の生活編集レポート 3/3

【ゲスト】佐藤真

【聞き手】千々和淳

EVENT REPORT

分かち合う料理
――Ovni元編集長 佐藤真の生活編集レポート 3/3

【ゲスト】佐藤真

【聞き手】千々和淳

2015年10月10日に、40年間日本とフランスを結んできた『Ovni』誌の元編集長佐藤真さんをお招きして、「音楽」「編集」「料理」という3つのキーワードでお話をうかがいました。本コンテンツは、そのうちの「料理」についてのお話をvol.3として書き起こしたものです。
料理の話はもちろん、フランスでの生活スタイルなどから、これまでの「音楽」「編集」のまとめのお話をうかがいました。

OVERVIEW

2015.10.10(土)

ゲスト:
佐藤真
聞き手:
千々和淳(amu)

フランスの料理事情

※レポート1/3、2/3は以下よりご覧いただけます。
vol.1「音楽の編集」
vol.2「編集者として」

千々和:そろそろお腹もすいてきたところですが、ここで最後のキーワード、「料理」の話にうつります。料理が好きというのは、日本にいたときからですか?

佐藤:つくるのは好きだった。

千々和:一人暮らしをはじめたときから料理が好きだったとか。

佐藤:中学生くらいから好きでしたよ。

千々和:そんな早い時期から好きだったんですか。

佐藤:なぜかっていうと、うちは共稼ぎで祖父が料理をつくってくれてたんだけど、あんまりおいしくなかったんですよね。煮魚だけど出汁もなんにも入ってなかったり、しょっぱいだけだったり。煮豆もなんかまずいわけ。でもまぁ食べていたけども、やっぱり自分でつくらなきゃと思って。ちょうどお袋が『暮しの手帖』を定期購読していたから、その中の一つひとつをつくっていたのがきっかけかな。我が家の男はみんな魚釣りが好きで、うちの母親は魚をさばくのが大嫌いで、釣ってくると祖父と父親は料理をせざるを得なかった。そこのところもあってかなり料理をしてた。

千々和:『Ovni』で佐藤さんの記事を読んでいると、家庭料理が、いかにもフランス料理っていうよりも生活に密着したような料理が多いと思います。いまでも普段ご自分でお料理をつくられたりしますか?

佐藤:大体毎日つくります。毎日じゃない場合でも、煮込み料理とか多めにつくっておいて、残りは2日ぐらいそれを食べるというのはあるけど、たいていは毎日つくってます。

千々和:料理をつくりたいから人を招くこととかもありますか?

佐藤:ありますね。たとえば、悪いけど『Ovni』連載の実験台になってもらうとか、そういうことはときどきやります。やっぱりフランスっていうのは人を呼んで食べることがかなり大切なことで、どこのうちでもなにかきっかけがあると人を呼んでつくっていて。普段はいわゆるフルコース、前菜、アペリティフをつくって、メインをつくって。デザートまでをつくっていたら時間もないし、ほとんどやらないけど。人を呼んだりはいつもするし、日曜日は家族を呼ぶことが多いよね。それはやっぱり呼ばれた方も嬉しい。呼んだ方も、きちんとじゃあフルコースでいくかって、アントレ、メイン、チーズ、デザートを用意することが楽しみなんだと思う。フランスっていうのは、カップル単位が多いから3人呼ぶと6人になっちゃう。そういうわいわいがすごく楽しい。フランスでは大切なんだな。

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千々和:フランスの物価とかどうですか。野菜とか肉とか。けっこう高いですか。

佐藤:今回来ていろいろ比較したけど、野菜と果物は案外フランスのほうが安くって、魚はやっぱり日本のほうが安いかな。活きもいいし。肉はやっぱり日本は高い。和牛とか100g何千円とか、えーこんなのはフランスだったらだれも買えないとか思うけど。だからフランスは日本と比べたら外で食べるとすごく高い。でも食材は逆に安い。だからフランスのレストランはたぶん儲けてるんだろうな。

千々和:そうかもしれないですね(笑)けど料理って、佐藤さんがつくるときにこの人にこういうのを食べさせてあげたいと思ってつくったりしますか?

佐藤:若い人が来るとすごく伝統的な家庭料理をつくって食べさせようとはよく思う。ぼくはいろんなフランス人の友人のお母さんのとこでとか、あるいは友人のとこでレンズ豆の煮込みだとか、すごく地味な料理だけど、そういう家庭料理を食べてすごく美味しいと思っていたことがあって。それがいまの若い人たちはどんどん食べる機会がなくなるから、特に親元離れることも多くなったから。だから若い人が来たときはそういう家庭料理をつくってあげると彼らはすごく喜ぶ。

千々和:やっぱり相手によって考えて。

佐藤:フランス料理はだいたい似ているけど、味付けするとき、塩味っていうのはひかえめにする。だからぼくの料理本、レシピであんまり塩のことを書いてないけれど、それは塩味は個人や各家庭で好みが違うから。自分のいいなと思う塩味になるように調整するのは、やっぱり大切だと思う。

千々和:佐藤さんの書かれたレシピ本は、周りの反響とかってどういう声がありました?

佐藤:読者からはそんなになかったけど、スタッフの声が一番多かったかな。おいしかったとか。それはよく聞きましたね。そういうときにまずかったって言わないからあんまりあてにもできないけどね(笑)。

千々和:そうですよね(笑)。いまの料理の話や、いままでの音楽や編集の話に共通しているのが、よりよい体験をするためにどうしたらいいかっていう、創意工夫というところが佐藤さんはすごく濃いなって思いました。労働時間30時間以外の時間でそういう相違工夫をされている、すごく濃い時間なんだろうなと思いました。料理に関しては、ぼくはできないんですけど。

佐藤:できるけどしないだけだよ。

千々和:ただしくはそうですよね(笑)。料理に関して「やっぱり一手間加えると全然違う」というのはよく言われることかもしれませんが、そのちょっとした一手間が結局食べる人にとっては味だけではなく体験が大きく違うということがありますよね。仕事でもそうしたことはよく言われますけど。なにかちょっとしたおまけがあったりするだけで「あの人は仕事を先回りしてできる人」とか「仕事のクオリティの高い人」と評価されたり感謝されたり。佐藤さんの普段の生活のお話のいたるところに、そういう創意工夫が溢れていると思いました。料理に関してはとてもわかりやすい。

料理の編集

千々和:ところで、ベタな話になっちゃいますが、好きな食べ物、嫌いな食べ物はどうですか。

佐藤:あんまり。大体なんでも食べてしまう。

千々和:フランス料理ばかりだと日本の料理が恋しくなったりしますか?

佐藤:家だとけっこう日本の料理をつくるし、朝市に行っていい魚があったら刺身をつくったりするね。だからあんまり恋しくなったりはないかな。フランス料理だと、塊のままで肉や野菜を煮たり、焼くにもオーブンが多いから、下準備の時間が省けるのはとても便利。でも、調理時間はフランス料理のほうが長いけど。時間はかかるけど、手間はかからないんだよね。たとえば、ココット鍋、今日もこのあとに出すポトフとか。塊で肉を入れて、アクをとらなくちゃだけど、 一つひとつすごく小さな手間はかかるけど、あとは塊のまま3時間火にかけてやって沸騰させて、蓋して弱火にしたらほとんどなんにもしなくていいわけだから、あれが一番簡単。その間にテレビみたりとかしてもいいし、時間はかかるけどね。オーブンなんかも簡単ですばらしい。大体、たとえば肉を塊で1キロ買ってきたとすると、レシピに1キロなら何十分と書いてあるから、そのままいれてほっとけばいいわけ。だから意外と手間がかからない。そんなに難しくないし、思ったほど時間はかからないでできる。

千々和:じゃあその間にまた本読んだりとかドラム叩いたりとか?

佐藤:ドラムは叩かないけど。忘れて焦がしちゃうから。本読んだり、音楽を聞いたりするくらいかな。

千々和:佐藤さんの忙しい生活の編集スタイルっていうのが、すごくイメージの湧く話だなと。佐藤さんはほとんど四六時中なにかしていて、家の中でボーッとしているときとかってあんまりないですか。

佐藤:どうかな。いやボーッとしているときはあるんじゃないですかね。

千々和:あります? うかがっていると、つねになにかしらやっている気がしますけど。

佐藤:あ、でも最近ドラムをあんまり練習しなくて。

千々和:(笑)ライブで今回来たのに。それ言っちゃっていいんですか。

佐藤:やっぱりドラムのね、友だちを呼んで一緒にリハーサルをやることがあるけど。ドラムの練習ほどつまらないものはなくて、つまりタタタタ タタタタ とか一人でやっていてもつまらない。

千々和:一人の練習がいやってことですよね、人とやってるときはおもしろい。

佐藤:うん、楽しい。ぼくの友人のミュージシャンのテナーサックス奏者が同じく1日2時間とか3時間とか飽きない? って聞いたらつまらないから飽きるって言ってたね。

千々和:料理のほうはどうですか。つまらないこと、おもしろくないことはありますか? 失敗とかなにかまずくできちゃったりとかしたら、料理自体までつまらなくなるなんてこともありませんか。

佐藤:まずくはできないけど、やっぱり困っちゃうのは塩入れすぎっていうのは一番困る。それさえなければ。適当にごまかせるし。だから、いい材料買ったりすると慎重になるし。あんまり料理で失敗はしないけど、塩をいれすぎたりはどうにもならないから。それだけは一番気をつけている。あとはなんとかできちゃいますよ。

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コピーからはじまる自分らしさ

千々和:さっきのイラストの話も、佐藤さんのスタイルって創意工夫があるなと感じつつもけっこうラフなところがあるというか、割とポンとやっちゃうところもありますよね。

佐藤:これまででいろんなレシピを知っているけど、はじめてみたレシピをやるときは、その通りにきちんとつくるというのが大切。それでちょっとまずくても、もう1回くらいは同じレシピをつくって、あとはなにしたっていいと思うのね。それで基礎ができちゃうから。たとえば赤ピーマンの代わりにほかのものを使ったっていいし、たとえばウサギ肉の場合、豚肉使ってもほとんどおいしい料理になるけれど。やっぱり最初のときはレシピに従わないと、レシピのどこが悪いかがわからない。レシピ自身もまずいレシピもあるわけだから。それがわかるためには一応レシピ通りやらないと、一歩先に進まない。だからやっぱり最初はレシピ通りつくるよね。

千々和:でも佐藤さんのレシピ本なんかはどちらかというとけっこうゆるい感じというか。ほかのレシピ本ってもっとけっこうきっちりだと思うんですよね。

佐藤:お菓子とかケーキ以外はあんまり、グラムとか関係ないと思う。お菓子だったら計らないと絶対間違えるから。でもふつうの料理は自分の好きな味にしたっていいと思う。トマトの缶詰をこれだけいれるっていうのは個人の好みだから。むしろ新しくておいしいわねってなったりするかもしれない。気にしなくっていいと思う。やっぱり基礎は大切にしないといけないけどね、でもあまり気にしなくっていい。

千々和:一番最初はちゃんと手本通りにやって、2回はやってみるのがとても重要という。確かに音楽もそうでしたし。

佐藤:一応ぼくだって昔はアート・ブレイキーのコピーとかしてたもんだから。

千々和:一応練習頑張ってたんじゃないですか。

佐藤:文化っていうのはコピーして覚えていくものだから。最初はやっぱりコピーして、あとはコピーの量だよね、うまくなるかどうかは。だから「お前は誰々をコピーしただけだ」っていうのはすごい間違いで、コピーをしなければ覚えられない。最初に一生懸命コピーしてそのコピーをどう使って、どういう風に発展させるかっていうそういうことが大事なんだと思う。

千々和:なるほど。今の話はいろんなところに通じますよね。仕事の場でもそうですし。

佐藤:コピーする元を変なの選んじゃ困っちゃうよね。

千々和:あー、そこはむずかしいですね。

佐藤:そういう判断がまだできないからね。

千々和:そのときはまだコピーをしたらいいネタってなにかわからないですからね。

佐藤:すこしずつわかってきたりはするよね。これやっぱりおもしろくないなという形で。やっぱりコピーするのはいいかもしれないね。

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体験のpartage=分かち合うこと

千々和:むずかしいですね。そこはやっぱりアドバイスもらったりとか、料理の手本、音楽の手本、仕事の手本、文章を書くことの手本となる人とかっていうのがあるんでしょうね。

佐藤:なぜ家庭料理かっていうと、いまの新しいレストランとかきらびやかな料理があるけど、家庭料理ほど、積み重ね、歴史がすごい長いものはないと思う。何代も続いて、一番揺るぎないものだから。だから、家庭料理の積み重ねっていうのは流行りのレストランとは比較にならない深さがあるから、家庭料理はちょっとレシピを動かしたって、ちょっと間違ったっていいじゃないと。それはやっぱり家庭料理の持っている《たくましさ》なんだろうね。

千々和:確かに、家庭料理ってコピーされている量が一番多い料理の分野でしょうね。ぼくはそれと同じような理由で本を読む基準も古典だけを読んでいました。それは確かに一つの基準としてはオーセンティックでオーソドックスなことなんでしょうね。

佐藤:でも、雑誌の仕事のときに参考になるのは、いろんな探偵小説とかなんだけど、それは探偵小説が《生活するレベル》で書かれていること。こんなことしたらこんなことがあったとか、こんなところに行ったらこんなのが出てきた、とかすごく具体的。純文学はもうすこし普遍的なのを書くけれどね。やっぱり、いろんな、こんなことがあった、とか具体的な《生活するレベル》のものを読むとすごく勉強になると思うから、最近は探偵小説しか読んでいないな。

千々和:自分でみつけられる目と耳が養われると、そういった探偵小説などからもいろいろなことを拾ってこれるようになるんですね。

佐藤:だから知っていくってことでいいと思う。やっぱり具体的なものを読んだほうがその国の生活の距離感がわかる。ジャン・ポール・サルトルを読んだって、たとえばルソーを読んだって、庶民レベルの生活はまったくみえてこないけど、探偵小説なんかを読んでいると、ああ、こんなときはこんな風にするんだなとかみえてくることがおもしろいかな。

千々和:それは確かに。まぁそのレベルまでわかることって。さっきの三行広告なんかも、昔にぼくが『Ovni』で三行広告を読んでいたときのように。

佐藤:あれはおもしろいよね。

千々和:こんな日本人の働き手を募集してるんだ、とかこれでおれフランス行けるかもな、とか甘い夢見ちゃったりしていました。

佐藤:だから、『Ovni』の記事より三行広告のほうがおもしろいって言われたりすることもある。おれもそう思うって返したり(笑)。

千々和:いや、そんなことはないですよ(笑)。

佐藤:暇あるときはみちゃうもん。こんな人やこんなことを募集してどうしちゃうんだろう、とかね。

千々和:ありますね。怪しいなこれとか。連絡してもどうなんだろうとか。

佐藤:たとえば、個人レッスンなんとかとか。そういうの読むのすごい、楽しいよね。そこから垣間みえる日常というのがいっぱいあって。

千々和:なにかの事件のにおいがするとか思っちゃったりするんですけど(笑)。けどまぁ『Ovni』は三行広告が一番ってわけでは全然ないので。本体がやっぱり一番おもしろいです。

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佐藤さんの料理の本は、2013年に復刊されましたが、初版は96年に出ています。料理の話をずっとしてきましたがその佐藤さんの本の中からのお料理の提供がそろそろです。なので、ここでまとめに入りたいなと。

ぼくの方で簡単にまとめさせていただきますと、今回は「音楽」「編集」「料理」をキーワードにしてお話いただきましたが、すべてを通して創意工夫というところがすごいなと思いました。自分がよりよい体験をするための編集、生活の編集技術にとても長けた方だなと思ったんです。それもやっぱり、料理だけでなく音楽、編集とかもすべて、届け先のほかの人、受け取り手を前提にしているなと思ったんですね。絵を描いて、イラスト描いて自分の部屋に貼って嬉しいというのではなくて、やっぱりそれはまず料理があって、それを伝えるための記事があって、よりよくそれが伝わるために、イラストっていうのがあって。よりよい体験をしてもらうための他者がいて、そのために自分が自分で自分ことを創意工夫をする、自分の毎日の生活で創意工夫するっていう話をうかがえたと思いました。

佐藤さんに最後におうかがいしたいところは、佐藤さんが、一番大事にしている、というかあるいは『Ovni』を長く続けていてですね、一番やっててよかったなと思うところを、編集者、ミュージシャンなどいろんな肩書きをもつ佐藤さんが1つだけあげるとしたらなんでしょう?

佐藤:たぶん、フランス語で、「パルタージュ(partage)」っていうんだけど、好きなことやなんかになると、一緒にこうその場で分かち合えたり。そういうのがたぶんぼくの根本じゃないかなという気がする。とにかく、酒でも演奏でもみんなで行くのがすごく好き。料理の記事も読んだ人が食べてなくてもこんな味だって思い浮かべることができることが好きな理由。抽象的なことを言葉だけで表そうとしてもむずかしいけれど、食べ物の話だと、読んでいると味がなんとなく想像できる。それもやっぱりぼくの中ではイメージや体験を分かち合えるからやっているということにつながっていくんじゃないかなって気がする。

千々和:なるほど。パルタージュ。じゃあ分かち合いというところが最後のキーワードというか、最後のまとめになったかなと思いますので、そろそろ料理の準備とかも、飲み物の準備もできたので。第2部はみなさんでパルタージュをしましょう。というところで第1部、終了となります。ありがとうございました。

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