EVENT REPORT

ファッションデザイナーとしての「ヌケメ」の仕事
――「肩書きはまだないvol.1」レポート1/2

【ゲスト】ヌケメ

【聞き手】土屋綾子、神谷衣香

EVENT REPORT

ファッションデザイナーとしての「ヌケメ」の仕事
――「肩書きはまだないvol.1」レポート1/2

【ゲスト】ヌケメ

【聞き手】土屋綾子、神谷衣香

2015年9月30日(水)、「肩書きはまだない vol.1 ――ヌケメさん」を開催しました。
2時間におよんだトークの一部を、2回に分けてレポートします。

OVERVIEW

2015.09.30(水)

ゲスト:
ヌケメ
聞き手:
土屋綾子(株式会社コンセント)、神谷衣香(amu)

INDEX

  1. 「肩書きはまだない」シリーズ
  2. 便利な“わらじ”が一足ほしい
  3. 「ヌケメ」のはじまりはブリーフ?
  4. グリッチとは、データのゾンビをつくること?
  5. 刺繍のモチーフに、デジタルなものが出てきてもいいじゃない
  6. キティちゃんのキティ性がなくなる瞬間
  7. “触れないものに触ろうとしてみる”がテーマ
  8. 自分のデザインを世の中の中学生に見せたい

「肩書きはまだない」シリーズ

近年、働き方が多様化し、的確な肩書きが見つからないという人も少なくありません。そういった既存の肩書きの枠におさまらず働く人の多くは、試行錯誤しつつも、仕事を楽しんでいるように思えます。そんな「肩書きはまだない」人たちは、なにを経験し、なにを考え、いまの道に進んだのでしょうか。

このシリーズでは、普段聞くことのできない、ゲストの働き方やそこに至る思考に迫ります。自分とは違う働き方や価値観に出会うことで、仕事を楽しむヒントが見えてきたり、これまでの自分を見つめ直すきっかけになったりするかもしれません。

こうしてスタートした「肩書きはまだない」は、9月30日(水)に第1回を開催。その当日の模様の一部をお届けします。

【プログラム】
19:00 開場
19:30 ゲストトーク前半:ファッションの仕事
20:50 休憩
21:00 ゲストトーク後半:音楽の仕事、働き方
21:30 質疑応答
21:45 イベント終了

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神谷:「肩書きはまだない」シリーズ第1回のゲスト、ヌケメさんです。

土屋:今ヌケメさんが被ってらっしゃるのは「ヌケメ帽」ですね。「バリアフリー」と書いてあります。

ヌケメ:ぼくは「バリアフリー」のバージョンしか持ってないんですよ。

神谷:オフィシャルの写真もそうですよね。お話の前に、簡単に聞き手の紹介もさせていただきます。まず、私はここ、amuの企画・運営をしています、神谷と申します。前職は出版社で編集の仕事をしていましたが、昨年の秋からここの運営に携わっています。そして今回のイベントを一緒に企画開催している、グループ会社・コンセントの土屋さんです。

土屋:土屋と申します。私はIT系の出版社に編集者として3年おりまして、そのあと音楽系の出版社に移って5年、Web編集をやっていました。音楽系ということもあったと思うんですけど、けっこう複数の仕事を持っている人……例えばミュージシャンをやりながらWebのエンジニアをやっていたりとか、そういう働き方をしている人と接する機会が多かったんです。そういった経験が、この企画のきっかけのひとつになっているかなと思います。

最近、複数の仕事を持ったりとか、東京などの都心じゃないところで働いたりだとか、そういう働き方が注目されているところではあると思います。前職でインタビューなどをやっていくなかで、当人たちはそこをあまり厳密に戦略立ててやっているというわけではなくて、今そこにいるのは、過去そのときそのときの選択の積み重なった結果な部分が大きいんじゃないかな、と思っていて。だから、この会も戦略を立てましょうだとか、どういう働き方を目指そうとかってことを考えているわけではありません。一番注目すべきところというのは、その人がこのときにこうしようと思ったという部分の話で、そういう話がこのシリーズで聞ければいいなと思っています。よろしくお願いします。

そしてヌケメさんです。

ヌケメ:ヌケメです、よろしくお願いします。普段洋服をつくっていまして、いま前に映っているのがヌケメ帽という、ぼくが昔からつくっている帽子のシリーズです。

(画面にヌケメ帽が映る)

これは辺口芳典さん(*1)という大阪在住の詩人の方とコラボしてつくっています。辺口さんからもらった詩、短い言葉の作品をぼくが帽子の形にして生産販売するというコラボ作品なんです。

最近は洋服じゃない形でグラフィックデザイン……例えば、CDジャケットのデザインとか、バンドもやっているのでライブをしてギャラをもらったりとか、あとは雑誌のインタビューやリサーチの手伝いをしたりとか、あんまりファッションデザイナーですと言い切れない感じの内容に仕事が変わってきちゃったんですけど。一応でも洋服をメインにいろいろと制作をしている感じです。

ヌケメ帽は100種類あって、ちょっと売り切れになっているのもあるから、いま80種類ぐらいかな。2008年、学生だったころに辺口さんとつくりはじめてもう8年目なので、ヌケメ帽が(ぼくの作品の中でも)一番古いシリーズです。

神谷:最初につくったのは、どの言葉だったんですか?

ヌケメ:「混沌は正常」とかは、たぶん一番最初だったと思います。「暴かれたい」、「カマイタチの陳列」とか。「寝タコを起こすドメスチック・ファンシー」も、一番最初につくった8個のうちの1つだと思います。「バリアフリー」は(最初の8個には)入っていなかった気がします。

土屋:サイト上では、1個1個(の言葉に)英訳が入っているんですね。

nukeme_report_3http://nukeme.thebase.in/

ヌケメ:そうです。けっこう海外からも注文いただくことがあって、意味を聞かれるので翻訳してもらいました。そもそも日本語としてどういう意味かわかりにくいものが多くて、英訳が難しかったんですよ。合っているのかどうかっていう……。

神谷:意味とか感覚が伝わっているのかどうか、ちょっと不安ですよね。

ヌケメ:そうなんですよ。でも、辺口さんの詩集が「CHIN MUSIC PRESS」というアメリカの出版社から、バイリンガルで詩集が出版されたんです。そのときに、英訳してもおもしろい、みたいな話があって。それで海外の出版社から出ることになったんですけど。同じようなタイミングで、じゃあヌケメ帽も英訳つけてもいいよね、という流れで訳してもらいました。英語で読んだときの感覚ってどういうものなんだろうって、わからないですけど……。

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*1:辺口芳典さん/詩人・写真家。1973年、大阪生まれ。2006年、キヤノン写真新世紀優秀賞を受賞。2011年、ドイツ、デュッセルドルフのゲスト・アーティストに選出され、志賀理江子、鷹野隆大らと共に「ANTI FOTO」展覧会に参加。2014年、シアトルのCHIN MUSIC PRESSより作品集『Lizard Telepathy Fox Telepathy』が出版される。

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便利な“わらじ”が一足ほしい

土屋:最初に聞いておきたいのですが、ヌケメさんの「肩書き」ってなにになるんですか?

ヌケメ:一応、「ファションデザイナー、アーティスト」って言ってます。

土屋:ひと言で表すのが難しいんですね。

ヌケメ:そうですね。(ひと言で)しっくりくるのがないんですよ。見つかればすごく楽だと思ってますけど。だから、今までの肩書きにはまらない仕事をしている人って自分で自分の肩書きを名付けたりするじゃないですか。「ハイパーメディアクリエイター」とか。あれってやっぱりしっくりくるんだろうなと思います。自分が今後の人生、どういうことをしていくつもりなのか、ということをひと言で表せる言葉がそれなんだろうなって。それをなんとか見つけないと、バラバラといろんなことをやるパターンの人だと、ひたすら肩書きが長くなっていくじゃないですか。例えば「タレント、文筆家、モデル、プロデューサー」みたいになっていきますよね。だから、もうちょっと整理したいなっていつも思います。

土屋:別にわらじの数をアピールしたいわけじゃないってことですよね。

ヌケメ:そう。便利なわらじが一足あればいいな、とは思います。

神谷:しっくりくる肩書きがないことで、不便だなって思うことはありますか?

ヌケメ:一番不便なのは、(まわりから見て)どういう仕事をぼくに振ったらいいのかわからないっていうことですかね。ぼくはバンドとか音楽もやっていたりして、雑誌のためにインタビューの手伝いをしたりとか、リサーチだけ手伝ったりとかもするんですけど、それはそれで、けっこうやりたいことではあるんです。あとは文章書いたりとか。そういう仕事をぼくが受けていきたいんですけど、ファッションデザイナーですって言っていると、そういう仕事はこないじゃないですか。ライターですって言って、ライターって書いた名刺を渡すからライターの仕事が来るのであって。こういうことがやりたいですってまわりにアピールしていかないと、やりたい仕事を振ってもらえない。どうやってそれをわかりやすく綺麗にアピールしていけばいいんだろうか、っていうのは不便なところですね。

土屋:その“わからなさ”を縫って依頼してくる人は、どういう考えで話を持ってくるんでしょうか?

ヌケメ:そういう人はたいてい、(ある程度自分のやっていることを知っている)友達とか、友達の友達とかですね。

「ヌケメ」のはじまりはブリーフ?

神谷:先ほど「ヌケメ帽」の話が出てきましたが、まず「ヌケメ」という名前、ブランドのはじまりについてうかがっていきたいと思います。

土屋:辺口さんとの出会いのきっかけは、なんだったんでしょうか?

ヌケメ:ぼくは岡山県生まれなんですけど、大阪のエスモードという学校があって、そこに通い出して、大阪に引っ越して1ヶ月目ぐらいに辺口さんとばったり知り合ったんです。それ以来の付き合いですね。それで、ぼくの方から「学校の卒業制作でコラボしてほしい」とオフォーを出して、そのときに辺口さんにつけてもらったブランド名が「ヌケメ」だったんです。最初はブランド名としてもらった名前だったのが、いつの間にか個人名になっちゃったんですけど……ブランド名兼個人名。

土屋:最初のコラボの作品がヌケメ帽ですか?

ヌケメ:いや、最初のコラボ作品は帽子じゃなくてツナギだったんです。ツナギに辺口さんの写真をプリントしたもの。

神谷:最初は言葉ではなく、写真だったんですね。

ヌケメ:そうです。その次につくったのがこの帽子のシリーズです。あとブリーフ。

土屋・神谷:ブリーフ……!?

神谷:帽子の前にブリーフがあったんですか?

ヌケメ:そう、ブリーフが最初かな。ブリーフに辺口さんの写真をプリントしたシリーズがまずあって、確かそのあとに帽子、Tシャツですね。

神谷:なんでブリーフにしたんですか?

ヌケメ:割と簡単に大量につくれるもので、なにか作品をつくりたいねという話をしていて。どんどん、次々と新しいものをつくれるようなスピード感が欲しかったんです。だけどTシャツをつくるっていうのはみんなやってるよね、あんまりおもしろくないよねという話になって。現実的なことも含めていろいろと考えた結果、ブリーフはおもしろいんじゃないかなって。ユニセックス・ブリーフといって、女の人用のブリーフっていうのがアメアパ(アメリカンアパレル)で売っていたりしたんですが、ブリーフを人にプレゼントする感じとか、すごく親密じゃないとできないし。あとだれにも見せないのに写真がプリントされているっていうのも、なんかいいなあということで。

土屋:それは学校の制作としてつくったんですか?

ヌケメ:というのとは違って、プライベートワークです。販売するものとして。その次に帽子をつくった経緯は……、その当時にニュースになっていた記事で、確かオランダのサービスで自分のおでこを広告媒体として1週間貸し出すっていうサービスがあったんですよ。おでこに企業とか広告のキャッチコピーとかを貼って1週間、何時間以上そうやっているといくら貰える、という。

土屋:だれでも媒体になれるということですね。

ヌケメ:そうそう。確か元ネタはそういうサービスだったんですよ。おでこで情報発信するっておもしろいなって。辺口さんの言葉を雑誌で発表したり、ZINEにまとめたりするのもいいけど、帽子の上で発表するのもアリだよね、という話でこの帽子のシリーズが生まれた、という感じですね。

土屋:その背景を知ると、最近は日本語を刺繍している帽子もいろいろとありますが、本質は別物ですよね。以前、「日本語を刺繍したい」というオファーが来ると言っていましたが……。

ヌケメ:そうですね。要するに言葉だけ変えて、例えば「うちのバンド名を刺繍した帽子をつくってください」というような依頼もありました。でも、コンセプトもなにもなくなっちゃうので、それはやらないです。

土屋:これは辺口さんの詩の発表の場として帽子を使っているということですよね。

ヌケメ:そうです。だから、辺口さんに詩を発注するのはありなんですよ。そういうシリーズもつくったんですけど。例えば、辺口さんに「安室奈美恵」っていうテーマで言葉を考えてください、とお願いして返ってきた言葉を刺繍して売る、ということはやったんです。そうやって1回辺口さんを経由するのはあり。でもなにも経由せずに、ここに例えば「“さびしい”っていれてください」みたいなことは、なし。そういう依頼を受けたら儲かるんだろうなって、思いますけどね。

土屋:ちなみに、この刺繍の位置って真ん中なんですか?

ヌケメ:ちょっとずれてます。ぼくがやっていることってそこだけなので。配置と、字詰めをどれぐらいにするかっていう、DTP的なことしかやってない。

土屋:それで、刺繍をキャップにするようになった後、その刺繍のデータをいじりはじめたということですか?

ヌケメ:そこは、直接は関係がないんです。

グリッチとは、データのゾンビをつくること?

ヌケメ:ぼくの作品で、刺繍のデータをグリッチさせるというシリーズがあるんです。

グリッチ刺繍の動画が流れる)

ヌケメ:いま映っている動画がそうなのですが、グリッチというのはデジタルデータのエラー、バグのことをいいます。(この作品の場合は)コンピューター刺繍ミシンの刺繍データが壊れた状態のことですね。ミシンの針がちゃんと正しい位置に動かない状態で、無理やり刺繍させるという作品があってですね……。それは帽子のシリーズとはまったく関係がないんです。

通称「グリッチワークショップ」(*2)と呼ばれている東京芸術大学の公開講座で、学生以外の人も参加できる講座が2011年の夏にあったんです。グリッチの方法とか歴史とか、こういう作家がいますよ、こういうデータはこういう風に壊れますよ、ということを教えてくれる、2日間の講座でした。そこに参加したことがきっかけで、データのバグ、データのエラーをなんらかの形で作品化するっていうことをやりはじめました。

もともと洋服をつくっていたこともあって、なにかしら洋服の形にできる出力がいいだろうと思ったんです。コンピューターミシンのデータを壊すということを、当時は世界でだれもやっていなかったので、やってみたいなと。やってみたら思いの外、想像していた感じにできました。

土屋:動画を見ると、(グリッチ刺繍の作業中に)PC上でなにか開いて確認しているじゃないですか。あれはなにをしているんですか?

ヌケメ:テキストエディタというソフトで刺繍のデータを開くと、内容が文字列で表示されるんです。その数字を書き換えていくとデータがどんどん壊れていく。壊すところまでは意図しているんですけど、どう壊れるかっていうのはぼくもコントロールしているわけじゃないので、こういう結果になるんだというのはぼく自身も驚きがあります。

土屋:壊すなりにもコツがあるんですか?

ヌケメ:もちろんあります。壊しきると、例えばミシンが動いてくれなかったりします。あとソフトで開けなかったりとか、針が折れたりとか。

土屋:読み込ませるまではさせないといけない、ということですか。

ヌケメ:そうです。読み込んでちゃんと刺繍してくれるっていうところまでは、やってもらわなきゃ困る。だから中途半端な状態にしないといけないんです。画像を壊したり音を壊したり、動画を壊したり、いろいろなやり方があるんですけど、グリッチの話をするときによく言うのが、開けなくなったファイルというのはグリッチではないんです。壊れているけれど、壊れているなりに再生ができるというのがグリッチのおもしろさであり、おもしろさが見える状態なんだ、と。

瀕死はいいけど、データが死んでしまってはダメ、という感じです。ぼくはゾンビって言っています。(グリッチされたものは)データのゾンビ。

土屋:壊れ方はプレビューできるんですか?

ヌケメ:それが一番大きいところで、プレビューできるかどうかっていうのは、やってみるまでわからなかったんです。実際プレビューができたので、すごく便利。

実は、ここに行き着くまですごく時間がかかったんです。1週間ぐらいずっとやっていました。プレビューだけ壊したりとかもできるので……要するに、プレビューでは壊れているけれど、実際刺繍すると壊れていない、という状況なんですが。どの辺の領域をどれくらい壊すといいかというのを、ずーっと探していました。

土屋:そのプレビューする領域は、ファイルによらず共通なんですか?

ヌケメ:同じ拡張子だと基本共通です。例えば画像の場合、jpegはjpegの圧縮方式、pngはpng、tifはtifの圧縮方式というのがあって、それはテキストエディタで開いたときは同じ特徴を持っているんです。だから拡張子が同じだったら大体同じ特徴です。あとはそのデータをつくるやり方によって、ちょっとヘッダーが長くなったりフッターが長くなったりとかはあります。例えばjpegを書き出すにしても、Photoshopで書き出すと最初に「これはPhotoshopのバージョンなになにで書き出したjpegです」という情報が頭にくるんです。でもPhotoshopで書き出さないとそこの情報がなかったりする。何月何日につくりました、みたいな情報もヘッダーに入っていたりして。

土屋:なんだかWebページみたいですね。

ヌケメ:Webのソースコードをいじっている感じに近いです。

土屋:繰り返していくなかで熟練したグリッチが生み出されているんですね。

ヌケメ:そうです。グリッチワークショップで教えられたことのなかで一番大事だなと思ったのは、しつこいこと。とにかくしつこくやるっていうのがすごく大事なんだと。そのときの先生がucnvさん(*3)でした。ucnvさんと林洋介さん、針谷周作さんの3人が先生だったんですけど、ucnvさんはぼくのグリッチの先生でもあるし、その後いろいろと一緒に作品をつくったりもしているんです。

土屋:ucnvさんはミュージックビデオのグリッチとかやっていらっしゃいますよね。ucnvさんはどんなきっかけでグリッチをはじめたんですかね?

ヌケメ:遊びではじめたのが、いつの間にか仕事になっていたみたいです。

土屋:自分ではじめたんですか?

ヌケメ:自発的だと思います。グリッチというのが流行り出した時期があって。元々はCDの音飛びをレコードのスクラッチ音みたいな感じでノイズとしてサンプリングして音楽をつくるっていうのが、一番最初にあったグリッチの流れです。音楽の世界で流行って、消費されて廃れて、1回ブームが去るんですけど、そのあとにデータモッシュっていう映像を壊すグリッチの手法がもう1回流行って。それからが現在まで続いている流れなんです。映像とか画像を壊すことから、布にする人たちが現れて。ucnvさんはTシャツをつくったりしています。ucnvさんとかぼくとか、ジェフ・ドナルドソン(*4)というアーティストとか、何人かいるんですけど。あと3Dデータ壊す人とか。

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*2:通称「グリッチワークショップ」/2011年8月20日、21日に開催された「東京藝術大学芸術情報センター 2011年度公開講座 グリッチワークショップ」。
講師:ucnv、林洋介、針谷周作
担当:城一裕、高尾俊介

*3:ucnvさん/プログラマー。コンピュータ上で画像や映像を破損させるプログラムを開発し、それらを用いてライブパフォーマンスやMV制作などを行う。「ユタカワサキバンド改めucnvバンド」のメンバー。http://ucnv.org/

*4:ジェフ・ドナルドソン(Jeff Donaldson)/洋服レーベルGLITCHAUSを主宰。GLITCHAUSのロゴはヌケメさんのデザインによるもの。http://glitchaus.com/

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刺繍のモチーフに、デジタルなものが出てきてもいいじゃない

神谷:では、グリッチの作品についてもう少しうかがっていきたいと思います。ヌケメさんはIT企業のロゴをグリッチしてたりしていますよね。それのきっかけはなんですか?

ヌケメ:それは、見た目的な都合とか、法律的な都合とか、いろいろな面で一番都合がよかったのがIT企業のロゴだったんです。

土屋:権利的に、ということですか?

ヌケメ:そうです。あの、その辺は弁護士と相談しながらやっていたりするので、大丈夫ですよ。

土屋:そうなんですね! ちょっとはらはらして見ていました。

神谷:いま話に出ているのが、こちらの作品ですね。

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ヌケメ:Internet Explorer(以下、IE)とかGoogleのロゴを、先ほどご紹介したグリッチ刺繍で壊して洋服に刺繍して、作品をつくっています。それが権利的にいいのか、よくないのかということは、ぱっと見すごくドキドキするんですよね。

(画面にヌケメさんのウェブサイトに掲載されている作品が映し出される)

土屋:これも弁護士さんと相談したんですか?

ヌケメ:そうです。

土屋:複数のロゴを混在させているというところもなにかあるんですか?

ヌケメ:ああ、そうですね。見た目的な「ありえなさ」というのと、単純に好きなロゴを並べているっていうのもあるんですけど。

土屋:じっくり見ていると物語性を感じてしまいますけど。

ヌケメ:物語性みたいなことはあります。Web業界の人じゃないとこの感覚はわかりにくいかもしれないんですが、IEがどういうものかをある程度感覚的にわかってないとおもしろくないと思うんです。この作品で、IEロゴはもともとオリジナルのデータは1つですが、全部グリッチの出方が違うんです。1個のデータからグリッチのバリエーションをつくって並べると、奥行きが出る。そこでなにが起こっているのか? みたいなことが、たぶんうっすら見えるかなと。

あと、インターネットモチーフって洋服の上にあんまり登場してこなかったと思うんですよ。いまは割とそういうカルチャーがあるので、普通といえば普通ですけど。

刺繍に現れるモチーフって、けっこうアールヌーボー的な感覚で止まっていて……。要するに花とか、鳥とか、葉っぱとか、動物だとか、ウィリアム・モリスの壁紙に使われるようなモチーフで割と止まっているんですよね。それで、刺繍のモチーフとしてデジタルのものを使うという目新しさ、ファッション的な意味での目新しさというのも個人的にはあります。それに、葉っぱとか花とか以上に、日常目にする機会が多い、目にしている時間が長いのってこういうモチーフだったりするじゃないですか。当然新しい自然の一部として、そろそろデジタルなものが洋服のなかにモチーフとして登場してきてもいいじゃない、というデザイン的な観点も入っています。

キティちゃんのキティ性がなくなる瞬間

土屋:そして、法律的に問題ないということでやっていたグリッチ刺繍が、今度はサンリオとコラボしはじめたということですね。

キキララ1

ヌケメ:そうです。これは嬉しかったですね。いまぼくが着ているのも、サンリオの「キキララ」(のグリッチプリントTシャツ)なんですよ。刺繍のTシャツはぼくがソロでつくっていて、いま着ているプリントのシリーズは、ucnvさんにグリッチしてもらったデータをぼくがTシャツ化しています。これは伊勢丹新宿店のTOKYO解放区でやった企画。白いTシャツを売り場に並べて、デジタルプリンターを売り場の中に持ち込んで、お客さんに「このデータプリントしてください」って言われたらその場でプリントするっていう企画だったんですよ。オンデマンド・グリッチプリント。時間的な問題で、刺繍はもうでき上がった状態で置いてあったんですけど。

(画面に「けろけろけろっぴ」のTシャツが映る)

けろっぴ1

「けろけろけろっぴ」も売れましたね。ぼくがゴリ押ししたんですけど。けろっぴがやりたい、絶対やりたいって。キティちゃんとかマイメロディに比べると、けろっぴのグッズってあんまりないんですよ。でもちょっと自分の世代的にも思い入れが強くて、数少ない男の子向けのキャラクターだったので。「みんなのたあ坊」とかもやりたいですけどね。たあ坊、ハンギョドンはすごくやりたいですね。

土屋:これは伊勢丹が企画して、サンリオがOKしたということですか?

ヌケメ:そうですね、伊勢丹の方からグリッチをテーマにしたポップアップ・ショップをやりたい、という話がまずぼくのほうにきました。それで、やるならucnvさんと組みたいですって話して。ぼくとucnvさんと伊勢丹が企画を練り練りしていくなかで、グリッチってそもそもなんなのっていうことを伝えるのが難しい、一般のお客さんに伝えるのが難しいだろう、なにかキャッチーなアイコンを用意したほうがいいですねっていう話に、じゃあサンリオはどうですか、という話で紹介してもらい、OKいただいたんです。

土屋:サンリオの反応としてはどうでした?

ヌケメ:けっこう喜んでくださいましたよ。子ども向けとしてではなく、もっと大人っぽい感じで、アート性みたいな部分を強調していきたいらしくて。そこに海外でこういうグリッチアートっていう文脈があるんですよ、と紹介したらハマってくれたみたいで。

(画面にさまざまなサンリオとのコラボ作品が映し出される)

土屋:キティちゃんの鼻が全然違うところに移動していたり、ものすごい尖り方してますね。

キティちゃん

ヌケメ:そうそう。壊しながらキティちゃんのキティ性がなくなる瞬間があって。ぼくはすごくその境目を感じながら作業していて、おもしろかったです。キティ性とはなんなのか。

“触れないものに触ろうとしてみる”がテーマ

土屋:ここでちょっとIT企業のロゴの話に戻りますが、ヌケメさんの作品は、ネットカルチャーとの繋がりが深いように思っています。先日ニューヨークでやっていた「インターネット ヤミ市」とか、あの辺もネットの文脈ですよね。

ヌケメ:そうですね。iPhoneが出てきたのは大きいと思うんですけど。常にインターネットに接続されていて、日常のなかにインターネットが溶け込んできた後の世界観があると思うんですよ。Web上のビジュアルって、元々概念としてしか存在しないものじゃないですか。インターフェイスとしてそこにあるだけで、なにか物質的に、Windowsの画面みたいなものが存在しているわけではない。だけど、頭の中には質感みたいなものが浮かぶ。その質感をプリントアウトしてみたときに出てくる「歪み」みたいなものを楽しんでいるんだと思うんですよ。プリントアウトすると、Web上の画面で見るよりさらにチープなものというか、すごく偽物っぽくなるんですよね。その偽物っぽさみたいな部分を楽しんでいるんじゃないかなと思ってます。ぼくはけっこうテーマとして、触れないものになんとか触ろうとしてみるっていうところがあります。デジタルデータのエラーとかって触ることができないじゃないですか。それをなんとか触れる状態に近づけていこうとする、いこうとしてみる、というのがテーマとして1つある。だけどそれをやると余計に遠ざかる。そこのおもしろさみたいな感じですかね。

土屋:ちなみにインターネット ヤミ市というのがありまして。そもそも最初あれはどこで開催されたんでしたっけ?

ヌケメ:最初はTAT(Trans arts Tokyo)というところでしたね。神田の旧電機大学がもう使われなくなって廃墟になってたんですよ。その廃墟になっている旧電機大学跡をまるごと使って、アートイベントやりましょうという企画が3年ぐらい前にあって、そのなかでイベントの1つとして開催されたのがインターネット ヤミ市。

それで、IDPWっていうインターネット上の秘密結社が企画運営していて、ヤミ市のコンセプトとしてはインターネットっぽいものをリアルな空間で売る場ということなんですが。インターネットぽいもの、インターネットっぽさがなんなのかということについては、各々の判断に任せている。例えばリジェクトされたアプリを売るとか、ウェブのブラウザのスクリーンショットをコンビニでプリントアウトしてきてブラウザの生写真ですって売っているとか。あとこの間ニューヨークに行ったときは、自分の使い終わったパスワードとIDを1ドルとかで売っている人がいたりとか。売っているものは幅広くて、もうちょっとアートっぽいかっちりしたものを売っている人もいるんですけど。Webにアクセスするときに発行される「cookie」を、(お菓子の)クッキーにして売っている人もいて、ただのダジャレですよね。ヤミ市自体はもう10回ぐらい開催していて、1回目、2回目が東京でした。実は東京でやったのは2回だけなんですよ。

土屋:その後、いきなり海外に飛び出しましたよね。

ヌケメ:そうなんですよ。3年間で、東京、東京、ベルリン、北海道、ブッリュッセル、アムステルダム、台湾、韓国、オーストリア、ニューヨークで開催しています。ぼく、ほぼほぼ……アムステルダムと韓国とオーストリア以外は参加してます。インターネット ヤミ市ってだれがどこでいつ開催してもよいという、オープンソースみたいなもので。別にそのIDPWの実行委員が行かなくてもいいんですよ。やりたいっていう人がやればいいという。

アムステルダムで開催されたヤミ市の映像が流れる)

ヌケメ:このアムステルダムのときは、映像の途中で出てくる女性とジャンっていう男性がいるんですけど、確かこの2人が中心になって企画したようです。

別にここにいる会場のみなさんが開催してもいいんですよ。インターネット ヤミ市イン私のアパートメントみたいなのも全然ありみたいです。

いま映っているのは「YouCube」ですね。YouTubeっぽく見えるブース。これが先ほど話した「cookie」のクッキー。ふつうのクッキーです。ほかにも、スクラッチで当たるとフォロワーが当たる……Twitterのフォロワーが1,000人になりますよ、みたいなことですね、たぶん。フォロワーをお金で買えるという商売があって、それを皮肉った作品だと思うんです。

土屋:ヌケメさんはなにを売ったんですか?

ヌケメ:ぼくはさっき見ていただいた、IEの刺繍のTシャツとかを売りました。

土屋:あと別のイベントですけど、自分の名前を100円で売ったとおっしゃっていましたね。

ヌケメ:それは昨日、渋谷のWWWで開催された「シャバクラ」というイベントがあったんですけど、そこではぼくの本名を100円で売っていました。

土屋:あとLINEのIDですよね。売れたんですか?

ヌケメ:売れなかったです。

ヌケメ:買ってほしかったんですけどね。でも今後も売ってこうと思って。今日も。

ぼくしかいない出会い系サイトに、100円で入れる。返信するかどうかは約束しないですけど。とにかく100円でIDを売るというところまでですね。気が向いたら返信します。

土屋:あとアパレルの関連でいくと、「TANUKI」というブランドも。

ヌケメ:はい、「TANUKI」というブランドもやっていて、それはアートディレクターのドリタさんという人と2人でやっています。

(前にTANUKIのサイトが表示される)

これですね。日本のご飯、食事をテーマにつくっていて、お鍋のセーターとか、うどん柄のTシャツとか、米粒柄のマスクとか。そういうものをつくっています。あと最近DJみそしるとMCごはんちゃんというミュージシャンがいるんですけど、彼女のグッズ製作をさせてもらいました。ちょうどごはんテーマだし、合うんじゃないかということで。いま映っているのは、「バラン帽」です。

バラン帽

ヌケメ:お弁当に入っている「バラン」がついている帽子。プリントとかじゃなく、本当のバランがついています。

土屋:バランって、材料としてこの長さで買えるんですか?

ヌケメ:いやこれは、切る前のシートになった状態のバランを買って、ぼくがカッターで1個1個切っているんです。すごく綺麗に切れてますよ。なんかちょっと王冠ぽくみえるので、ヒップホップ感があっていいなと。

土屋:そうですね。そして、いま映っているのが「うどんT」ですね。

うどんTシャツ

ヌケメ:「うどんT」はすごく売れました。

土屋:「ねとらぼ」とかネット系のニュースサイトでも取り上げられていましたね。

(画面にネットニュースが映し出される)

神谷:これですね。「想像以上にうどんで困惑」と書かれてます。

ヌケメ:そうそう。あとなんか夢眠ねむさんのお姉さんが買ってくれたみたいで。噂なので、ぼくは見てないですけど。

土屋:上品さがありますよね。

ヌケメ:これ画像で見るとすごいインパクトですけど、着てると意外とわかんないんですよ。よくよく見るとうどん。ぼくはポケットがすごく気に入っているんです。ポケットがお椀の形なんですよね。そこにiPhoneとか入れたらすごくかわいい。

土屋:そして、「うどんネックレス」もありますね。

ヌケメ:「うどんネックレス」は夜光りますよ。蓄光なんで。

自分のデザインを世の中の中学生に見せたい

土屋:ヌケメさんはファッション系の学校を出られて、アパレルとネットのモチーフだったり、食のモチーフだったりというところを結びつけています。そもそもファッションでそういうことをやっていこうというきっかけは、なんでしたか? ファッション自体に興味があった理由とか……。

ヌケメ:ぼくはもともと中学校の3年間、ずっと囲碁をやっていて、プロを目指していたんです。囲碁って中学3年生までにプロになるのが普通で、高校3年生までプロになれないと割と落ちこぼれ感が出る業界なんです。そこからプロ9段になるまでに40年ぐらいかかるので、40後半とか50代とかでようやくプロ9段っていう世界なので。だから、ぼくはちょっと年齢的にもう遅いから諦めて、次なにしようかなって考えました。

というか、なにを自分の生業にしていこうかなって思ったときに出会ったのが、ファッションだったんですよ。ギャルソンとかマルジェラの洋服を見たのがきっかけでした。ギャルソンとかマルジェラの洋服って裏返しにした洋服とか、あとマルジェラだと完全にぺったんこになる服とか、ドレスにカビが生えてるだけとか、ああいうアイデア一発勝負みたいな、作品がけっこうあると思うんですよ。それがすごいおもしろいなと思って。デザインの大喜利みたいなとこがある。いまでも、ぼくはおしゃれにあんまり興味がないんですけど、それだったらやれるんじゃないかな、みたいな気が急に芽生えて。だから、例えばすごく仕立てのいい白シャツをつくりたい、みたいな方向にはあんまり行かないんですよね。

土屋:スタンダードなファッション業界、春夏秋冬コレクション出して、百貨店とかで売って、ショップを出してみたいな……それが本流みたいなものなんだろうなと素人ながら思っているんですけど。ヌケメさんの活動はそうじゃないラインという部分に位置しているんですよね。

ヌケメ:そうですね。基本的には人があんまりやっていないような実験というか、山を耕しているみたいな感じです。耕しといたよ、ということをひたすらいろんな人に言ってる。あとはそっちで植えてね、っていう。

土屋:なるほど。そういう意味ではファッションの本流とはアウトしている感じっていうか、意識的にアウトしようと思っているんですか?

ヌケメ:意識的にやっていますね。あんまり開墾されていない土地をずっと探し歩いている感じです。だから、例えばユニクロとかがやらないようなことっていうのはあります。ああいう規模で、H&Mとかユニクロみたいな状態がやっぱり最強じゃないですか。バランの帽子とかつくらないだろう、と。つくる意味がないし。そういう、人がやらないようなことだけど、はっとそこに気づきがあるというか、瞬間をずっと探しているというか……。

土屋:そこのバランス感覚があるかなと思っていて。大量生産する方にも向いていないけど、ヌケメ帽とか、Tシャツとかってある程度の数生産できて、世の中に流通できるという。

ヌケメ:いろんな人に見てほしいというのは、気持ちとしてすごくあります。ぼくはあんまり仕事を断ったりとかしていなくて。割と無茶振りでも受けるようにしているんですけど。

ヌケメ帽の場合、全国のヴィレッジヴァンガードに置いてもらっていますが、それについても、そんな風に売らない方がいいんじゃないかという意見があるわけです。BEAMSとか伊勢丹とかだけに置いているほうが高く見える、みたいな話は常識としてあるんです。でも、あの帽子に関しては逆張りにいきたいなと。とにかく世の中の中学生に見せたいんです。だから究極、ジャスコに置いてあったらいい、というのをずっと思っているんですけど。

土屋:野球帽とか置いてあるところに。

ヌケメ:そうそう。あの帽子に関しては、そこに並んでいるのが完成型だろうなと思っています。

土屋:というところで、ヌケメさんの活動をいろいろとお伺いしてきたんですけれども、ファッションを中心に話を聞いてきて、でも実は、ヌケメさんはそれ以外のこともやってますよ、というところを深掘りしていこうかなと思っています。

(2015年9月30日 @amu)

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amu

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