EVENT REPORT

善きデザインの時代(The Age of Good Design) ルチアーノ・フロリディーーWorld IA Day 2018 Tokyo

【スピーカー】ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi)

EVENT REPORT

善きデザインの時代(The Age of Good Design) ルチアーノ・フロリディーーWorld IA Day 2018 Tokyo

【スピーカー】ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi)

人間はコペルニクス革命によって宇宙の中心ではなくなり、ダーウィン革命によって特別な種ではなくなり、フロイト革命によって自らの主人でもなくなった。そして今、情報による革命が起きている。それは環境であり、私たちのリアリティを創り、自己理解と相互の関わりかたを変え、世界を解釈する力となった。そこで果たすべきデザインの役割とは? ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi)による "The Age of Good Design" と題された World IA Day 2018 Tokyo の講演をお届けします。

OVERVIEW

2018.02.24(土)

スピーカー:
ルチアーノ・フロリディ(Luciano Floridi)(Professor of Philosophy and Ethics of Information, University of Oxford; Director of Digital Ethics Lab, Oxford Internet Institute)

INDEX

  1. Cleaving = Cut and Paste
  2. イノベーションとデザインの役割
  3. デザインの論理
  4. Design for Human Project

Cleaving = Cut and Paste

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フロリディ:本日はお招きいただきありがとうございます。また、本日の講演はスカイプで行うということも楽しみです。まだ実験段階にあるこのような技術は、これからは誰でも普通に使えるようになっていくと思いますから。では早速始めましょう。

本日の私の話は四部構成になっています。第一部は Cleaving という概念を紹介します。これはとても翻訳しにくい概念でしょう。そして第二部ではこのCleave という概念でイノベーションを説明したいと思います。そして第三部がデザインです。そして最後の第四部で今日どのようなデザインの論理が可能なのかを説明します。
まずCleavingから説明します。Cleave という言葉は英語では不思議な意味を持っています。「分割する」「切る」という意味の他に、「つなぐ」「接着する」という意味も持っています。元のドイツ語では2つの言葉であったものが英語になったときに1つの言葉に集約されたのです。そして今日の世界では、Cleaving は「切り貼り(CUT and PASTE)」として理解できます。デジタルによって可能になったこの Cleaving という能力(Power of Cleaving)を紹介しましょう。デジタルの力で物事を接合したり切り離したりすることができます。いくつか例を出します。
例えば、デジタルは「存在すること」と「場所」を切り離しました。ある一つの場所に存在しながらも、他の場所に存在することもできるようになったということです。

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この地図は1648年のヨーロッパの地図です。この頃、自分の場所では自分のルール、別の場所では別のルールという仕組みができました。ヴェストファーレン条約と呼ばれているものです。それ以降は、法律と土地が接合されました。しかしながら現在はデジタルの世界でサイバースペースがあり、法律と土地が切り離されました。
また、現代の社会においては、所有権と使用することは切り離されています。いい例がUBERです。
そして、もうひとつのいい例が人工知能(AI)です。これにより、何かをするときには知識が必要だという要件が切り離されました。
また次の例は Cut and Paste のうちの Paste の方です。YouTubeはオンライン上における生産と消費を接合しました。
そしてブロックチェーンにおいては、確実性とデジタルメモリーが接合されました。さらにヨーロッパにおける「データ主体」において、自らに関する情報とアイデンティティーが接合されました。
最後の例は、オフラインとオンラインがひとつの体験を意味する「オンライフ」として融合されました。

現在、私たちはアナログとデジタルが融合された「インフォスフィア」という情報空間に生きています。それはちょうど、川が海に流れ出すところにおいて水が塩辛いのか淡水なのかわからないという状況に似ています。デジタルの力によって様々なものが Cut and Paste されています。これが Cleaving という能力を得たということです。

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イノベーションとデザインの役割

次はイノベーションについてお話しします。イノベーションには3種類あります。何かを「発明する」イノベーション。おそらく車輪の発明もそうかもしれません。そして次のイノベーションは「発見」。アメリカ大陸の発見然りです。そして、次のイノベーションは「デザイン」によって生まれること。いい例が iPhone です。

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このことは三脚椅子に例えることができます。イノベーションという座面を支えるデザイン、発明(invention)、発見(discovery)という3つの脚がありますが、今日の私たちの世界ではその中で1つだけより重要な脚があります。それがイノベーションという座面を後ろで支えるデザインの脚です。
では、どうしてデザインが重要なのかということですが、これはデザインの役割の話です。ただの石が一つあるだけでは、そこにはデザインもありません。しかしながら、多くの石があれば、様々なデザインが可能になります。デジタルにも同じことが言えます。より多くのアフォーダンスを獲得し、制約はより少なくなるのです。従って、デジタルのCleaving 能力はデザインによってバランスが取れているのです。多くのことを Cut and Paste できれば多くのものをデザインできるということになります。
ここまでのことをまとめると、3つあったと思います。まずはデジタルのCleaving 能力を示しました。次に、デジタルの力によって多くのものが Cut and Paste されています。そしてこれによって多くのことがデザインされるということも示しました。次に重要な項目は「何がデザインか」ということです。

デザインの論理

スライド29デザインに論理はあるのでしょうか?こちらにシステムがあると想像してみてください。そこには目的(Purpose)があります。そして、もしそれを理解しようとするなら、ある一定の抽象レベル(LoA)に構造化・抽象化されたインターフェイスと呼ばれるシステムを分析しなければなりません。例えば、冷蔵庫というシステムを理解しようとするなら、食べ物を冷やすという抽象レベルでシステムを分析します。こうして理解したことをベースにモデル(Model)が生成されます。そしてこのモデルによってシステムに帰属する構造(Structure)が特定されます。今申し上げたことは後で冷蔵庫の例を説明するときに明らかになると思います。
こうした情報の論理を研究した偉大な哲学者が2人います。カントとヘーゲルです。カントが着目したのはシステムにおける可能性の条件です。部分をみることによって、どのようにシステムが生成し、何がその原因かを理解することができます。ヘーゲルが着目したのは、システムの均衡と呼ばれることもある安定性の条件です。

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カントとヘーゲル、いずれの場合においても私たちが見ているものというのは、世界内に事物が再生産されたものに過ぎないということです。それはギリシャの世界においてはミメーシス(mīmēsis、ギリシャ語で「模倣する」の意)と呼ばれました。ミメーシスというのは写真を撮るように、世界を表象するということです。世界にすでにシステムがあるということなので中身を理解しようという考えです。例えば空に見える星などです。そして次の概念がポイエーシス(poiēsis、ギリシャ語で「産出する」「つくる」の意)と呼ばれる言葉です。システムは存在しない、エンジニアリングによってシステムを構築しようというのがこのポイエーシスということです。そして現在において世界は表象するものからつくる(Create)ものへと移行しつつあるのです。
ではデジタルに置き換えましょう。デジタルとは、写真のように世界を表現するものでも、法のように世界を規定するものでもありません。実は、世界に新しいページを追加する役割を果たしているのです。自然に関する本が常にページが追加されていくのに似ています。

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では先ほどの図に戻りましょう。デザインというのはシステムのフィージビリティ(Feasibility:実現可能性)の条件に関するものです、これがデザインの論理です。何かをつくろうとするとき、そのシステムがまだ存在しないとしても、可能性を検討する論理なのです。言わんとしているのは、この図の中の「フィージビリティの条件」です。
簡単な例を示します。まだ存在しない新しいシステムを分析します。作りたいものの青写真ができあがります。新しいシステムの実現可能性、フィージビリティの条件を特定します。だから、デザインに関する新しい論理があるのです。

つまりは、情報の概念的論理に関しては3つの切り口があるということです。まずカントの超越論的論理学があり、ヘーゲルの弁証法論理学、そしてデザインです。

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では具体的な例を示しましょう。これはアメリカ建築士協会(The American Institute of Architects)のものです。デザインがどのように有効なのかについて示しています。五段階に分かれています。まず第一段階においては「新しいものが必要」という発生の段階があります。そして第二段階においてはシステムを定義することに焦点をあわせること、これがフィージビリティの条件ということになります。第三段階がシステムの実際のデザインです。さらに第四段階が現実世界においてシステムを構築すること。そして第五段階が、システムが使用され、機能して現実の中に一定の位置を占めるようになることです。この中でもっとも重要なのは第二と第三段階です。フィージビリティの条件から実際に新しいシステムをデザインするという2つの段階です。

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ここでデザインの論理が重要な役割を果たしますが、そこで役に立つのがシステムエンジニアリングです。設計されるシステムにはスペシフィケーション、仕様というものがあります。いわゆる要件と呼ばれるものです。これを記号で表します。R1からRnは非機能型(Non-Functional)、あるいは機能型(Functional)要件を示します。具体例で説明します。冷蔵庫の非機能型要件とは、冷蔵部や冷凍室などに分かれた部分(コンパートメント)がそれぞれ熱的に遮断されているということに相当します。それは「システムがどうあるべきか(What the system is supposed to be)」ということです。水の氷点の数度高い温度を一定に保つという要件は機能型要件であり、「システムは何をしなければならないのか(What the system is supposed to do)」ということです。

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今申し上げたことを図にするとこのようになります。一番下に目的と抽象レベルがあります。そして左側に資金などのリソースなどがあります。これも要件と呼ばれるものです。そして右側にシステムがどういう機能を果たすのかということがあります。そしてシステムがどうあるべきかを示すアーキテクチャーがあります。これらもやはり要件です。こうした全体がシステムの論理的デザインということになります。
要件を満たすシステムを作ることを考えてみましょう。ここからの話の中では多少技術的かもしれませんが、ひとつ良い例があります。「一人が座れるもの」を新しいシステムとして設計することについてを考えてみましょう。「一人が座れるもの」といっても、背もたれのある椅子やスツール、座布団ということも考えられます。ですから、デザインの論理というのは必然性に立脚したものではなく、より多くの条件を満たしているかどうかに基づいた論理ということになります。一人掛けの席という要件をスツールも座布団も満たしているからです。こうしたことに関心があるかたは私の書いた『The Logic of Design as a Conceptual Logic of Information』を読んでいただきたいと思います。

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もう少しこの概念についてお話をしたいと思います。ひとつのデザインの必要性を満たすデザインはたくさんあります。だからこそデザインの最適化(optimization)や有効性(efficiency)が重要です。今日デザインにおいて情報のデザインの論理が必要な理由を考えてみましょう。まずは世界の知識は徐々に構成主義的(Constructionism)になっているからです。コンピューターサイエンスや経済、法律、建築などのように、システムを構築するだけではなくそれらを修正していかなければなりません。そして2つ目の理由は情報革命によって提起される様々な未解決の問題に答えていくためにデザインが必要だからです。先ほど、多くの石があれば多くのものをデザインできると申し上げました。デザインについて意見が一致しない場合、それは合理性がかける、あるいは情報が十分でないということではありません。それはデザインの要求の違いなのです。

Design for Human Project

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Cut and Paste に関しての最後の例はヒューマンプロジェクトというものです。デジタル技術というのは非常に力を持っていて、様々なものの Cut and Paste が可能です。ひとつ目は、カットできるものは資本主義と消費主義を断つということです。資本主義というのは富の形成においては重要な役割を果たします。しかしながら富を分配する、そして持続可能なものにすることに関しては資本主義は得意ではありません。その理由は、資本主義は消費主義を兼ね備えているからです。しかしながら、富を形成する資本主義をエンジンとして世界を育成する(Foster)ことも可能です。世界を気遣う(Care)という新しい経済こそが、21世紀において必要な歩みなのです。それがヒューマンプロジェクトにおける重要な第二歩目としてご理解ください。第一歩目は資本主義と消費主義を分かつことでした。そして第二歩目は資本主義と育成を接合するということになります。だからこそ今日の世界においてデザインというのは善のための非常に重要な力となりうると考えています。
私の結論であり、みなさん全員に推奨したいこと。それは、我々が現在生きているデジタルの時代はデザインの時代でもあるということです。ですから、皆様方におかれましては仕事、研究、学習する中で善きデザインの時代にしていただきたいと思います。以上です。ご静聴ありがとうございました。

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Q. 提唱されていた善きデザインをより知りたいので、さらにその例を伺えますか?

私にとってデザインというのは、問題がおかれた制約の中で持てるリソースを活用し、その解決策を引き出すということです。たとえばデザインの中には法制度の設計も含まれますし、新しいビジネスモデルをデザインすることも可能ですし、新しい人工物のデザインもありますし、WhatsApp のような新しいサービスのデザインもあります。
つまり、問題の本質をよく理解し、制約と目的のバランスを取りながら解決策を見出していくということです。しかし、ここにひとつ問題があります。すでに完成された善きデザインによってさらに優れたデザインを導き出すのは難しいということです。善きデザインというのは、それとして認められてしまうとそれ以上改良できないと思われがちです。デザイン学校でよく行われるのは「新しい椅子」を設計させるという試みです。課題も制約も目的も明確です。問題は、世の中にはたくさんの人によって善きデザインの椅子がすでに生み出されているということです。結論としては、デザインの経験のない人の方が良いデザイナーになりうるということがあります。だからこそオックスフォードで私が教える学生たちには、新しいアイデアや新しい実験を行う際には資料を読むのはやめて考えることを教えています。

Q. 今の時代、VRやハプティクスなど色々なものが生まれてきています。善きデザインとその倫理観はどういうものでしょうか?

では古典的な回答と新しい回答の2つでお答えしようと思います。古典的な答えというのは人権、人間の尊厳に立脚するものです。しかし、これは正論だとは思いますが、面白くはないと思います。というのも、現在開発されている新しい技術というのは、新しい環境における新しいエージェントの力であったりするからです。現在、今まで私たちが継承してきた人権そして人類の繁栄や尊厳だけでは不十分な世界となりつつあります。そして次が新しい答えとなります。人権や人間の尊厳だけではなく、他のものも加味しなければならないという主張です。それは人間の脆弱性(fragility)ということです。人間というのは脆いものです。人間というのは影響を受けやすく、それらに形作られてしまうという弱さを持っています。例えば水が滴り落ち続ける石を想像してみてください。私たちは石(自分)を強いものだと思っていますが、しかしながら、落ち続ける水の雫が石の形状を変えるようにデジタルの技術はそ私たちを形づくります。だから、石のことを考慮できるデザインが必要だと思います。私たちは自分たちが強いと感じているかもしれませんが、実は脆弱なので保護が必要なのです。これは抽象的な話ではなく具体的なことです。Amazonにログインするとそれぞれの人が気にいるような商品を提案してきます。ちょっとふざけた例かもしれませんが、そうしたログインを繰り返すことによって人はハリーポッターの全シリーズを読むことになるのです。もしかしたら本来は他の本を読みたかったかもしれませんが、石である人間はそのように形作られてしまうのです。ですから、答えが長くなってしまいましたが、善きデザインというのは人間の本性を大事にするデザインです。

Q. 先ほどのシステムデザインの中でループの出発点は「目的」でした。ではその目的を駆動するものはなんでしょうか?

この目的こそがデザインの原動力になっているのです。例えば休暇の計画を立てることもありますが、計画するだけでは意味はありません。それを実行しなければならないのです。これがデザインの一番難しい部分かもしれません。イノベーティブな考えが必要だからです。ですから目的が不明瞭である場合は古いデザインを繰り返し再現しているにすぎないのです。今まで考えられたことがなかったことを考え出すということが難しいのかもしれません。そしてまた人間というのは動物の中で唯一長期的な目的を持つ生物です。私の愛犬は年金の心配はしていません(笑)。

 

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World IA Day Japan 2018 Tokyo 公式サイト

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