EVENT REPORT

読みたいのに未だ読んでいない本について堀潤さんが思っている2、3のこと in 恵比寿文化祭2016 1/2

【ゲスト】堀潤

【聞き手】千々和淳

EVENT REPORT

読みたいのに未だ読んでいない本について堀潤さんが思っている2、3のこと in 恵比寿文化祭2016 1/2

【ゲスト】堀潤

【聞き手】千々和淳

読みたいと思ったまま、ずっと放置している本はありませんか? 何故その本を読みたいと思ったのですか? その本になにを期待していますか? 読みたいのに未だ読んでいない本について考えたとき、気づいていなかった自分の思いに出会えるかもしれません。

OVERVIEW

2016.10.09(日)

ゲスト:
堀潤(ジャーナリスト)
聞き手:
千々和淳(amuコンテンツディレクター)

INDEX

  1. 原点となった本 宮沢賢治『雨ニモマケズ』
  2. 私たちの行動は身近なものに影響を受けている ハーバート・シラー『世論操作』
  3. 堀潤の「メディア史」

原点となった本 宮沢賢治『雨ニモマケズ』

千々和:今日は堀潤さんに来ていただいて「読みたいのに未だ読んでいない本」について、読みたいと思った背景や期待感などについてお聞きしたいと思います。
その前に、まず堀さんが今までで一番影響を受けた、すごく心に残っている本はなんでしょうか。

堀:これは、えー! と思われるかもしれないんですが、宮沢賢治の『雨ニモマケズ』です。テレビ業界で働こうと思った原点となった本ですね。

千々和:いつ頃読んだんですか。

堀:小学生のときです。雨ニモマケズ風ニモマケズ……そこに書かれてる内容は、結局オロオロしても、それでも歩んでいくということです。奇をてらったなにかすごいことをやろうというわけじゃないんです。人からバカにされようとなにされようと、地道にやっていくんだよというのを小学生のときに教えてもらった。それが今の原点になっています。

千々和:堀さんの一般的なイメージだと意外な感じがします。

堀:過剰なストーリーに人は反応しがちだと思うんですが、世の中を動かしてるのは、目にみえる過剰なストーリーではない。本当は目にみえない中でコツコツやっている方々の取り組みが動かしてるんです。メディアで取り上げられ、目に留まる話は、本当に全体の動きの中のほんの一部なんです。僕らはもっと、ストーリー化されていないようなアクションに目を向けられるようになったらいいなと思います。最近だとクラウドファンディングで資金集めされて、こんないいことやってたんだ、知らなかったというのがいっぱいありますよね。そういったことに触れる機会も増えてきたなと思います。
2016年のノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー」も、30年〜40年の間どういう成果があるかわからないままに研究が進められてきた。その研究費集めは大変だったと思います。大隅良典栄誉教授は慎ましい方ですから、それほど大きなお金は必要なかったかと思いますが、それでもノーベル賞を取ったときに「賞金を後輩の研究費に充てたい」といわしめるほど、お金が足りないんです。iPS 細胞を発見し、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授も、自分の資金を集めるためにクラウドファンディングでマラソンをして支援を求めた。
今まで僕らは100万円あったら科学の研究ができるというのを知らなかったし、そういうところはあまり大きく取り上げられてこなかった。一方で STAP 細胞の件のような、センセーショナルな、ワイドショー的なものに対しては一気に群がる。そろそろどこかでそういったところと縁を切って、もうすこし地道な活動、アクションに目が向くようなコミュニケーションをやっていくべきなんだと思います。

千々和:そこまでうかがうと『雨ニモマケズ』を選ばれたことは腑に落ちます。

堀:思っている以上に「宮沢賢治」は世の中にたくさんいるはずなんですが、それよりも世の中で上手くやれる人がフィーチャーされてしまう。地道にやっている人がフィーチャーされる割合をすこしずつ増やしていけたらいいなと思います。

私たちの行動は身近なものに影響を受けている ハーバート・シラー『世論操作』

千々和:では、本題の「堀さんがずっと読みたかったけれど、未だ読んでいない本」をあげていただきたいなと思います。

堀:ハーバート・シラー(Herbert Schiller)というアメリカの社会学者の『世論操作』です。
みなさんにちょっとうかがいたいんですが、自分は保守主義者だと思いますか。それともリベラル、自由主義者だと思いますか。なんでそう思うようになったかという理由を説明できる方はいますか。「俺これがいいよ」というよりも、「みんながそれがいいならそれがいいんじゃない」と思ったからですか。それってなんでそう思えるようになったんでしょうか。
おぎゃーと生まれた瞬間からそうだったのか、その後になにかいろんな体験があったのでしょうか。たとえば「蓮舫さんと小池百合子さんのどちらが好きですか?」と言われて、なんとなく蓮舫派かなとか、やっぱ小池さんかなとか、でも違うかな、両方応援してるしとか思い浮かぶじゃないですか。でもなんでそうなのかという源流を辿ってみると、そのときの印象や自分の政治信条など最終的にはぼんやりとしているんじゃないかなと思います。具体的で明確な、あのときのこの言葉を機に私はこう思ったんです、という体験があればいいんです。でもそうかなと思うものって、ひょっとしたら結構ぼんやりしているかもしれない。肉派なのか野菜派なのかということも、ビールの銘柄もそうです。なんでだっけ? というもとを考えると、自分の心の形成はわりとなにかに仕掛けられているのかもしれない。そういうことも念頭に置くべきなんじゃないかと思います。

千々和:なるほど。

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堀:今日のテーマは「大衆操作」なんですが、僕は大学時代の研究が「プロパガンダ」だったんです。プロパガンダで、パッと思い浮かべるのは、ドイツのナチスです。ドイツが大プロパガンダ制を展開して、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)が政権を掌握し、最終的に歪んだ選民思想でユダヤ人虐殺というところまで国民を巻き込みながらやっていくわけです。彼らは、当時出はじめたばかりのラジオや、テレビ・映画・ポスター・演劇・音楽といったメディアといわれるものをすべて動員して、ヒトラー自身が強烈な言葉で演説をし、私たちの印象の中に語りかけていった。オリンピックさえも利用して、石造りの巨大なスタジアムをつくって、そこにドラマ性をもたせるためにみんなで火を拝むための聖火台を考案しました。聖火ランナーを走らせて巨大なスタジアムで待ち受けるのはヒトラーの演出なんです。
そこから、ナショナリズムを煽る装置としてのオリンピックが冷戦下で繰り広げられていくわけなんです。今は何気なくみているけれど、ものすごく高揚するじゃないですか。そういうところには必ず高揚させるための装置がある。
今イベントをおこなっている恵比寿文化祭の様子をみていても、入り口にゲートがあって、その周りをテントがおおっていて、さらにその中にある黒板に子供たちがチョークで絵を描いて、お母さんとお父さんがそれを見守って、時には一緒に手を添えて描いてあげる……すごくいいシーンですよね。ここには地域のつながりや家族のあり様、休日の過ごし方、というイベント側からのある種のメッセージ、提案があります。これも、大衆操作の一環です。それはよし悪しじゃないです。メッセージの中にはとってもいいものもある。ですが僕らは、何気なくみている光景や聞こえてくるものによって、自分の行動が影響を受けていることを自覚することは大事なんだと思います。

堀潤の「メディア史」

千々和:堀さんのあげてくださった、シラーの『世論操作』は、原題が『THE MIND MANAGERS』というタイトルです。今は邦訳版は廃刊になっていて、手に入らないんですよね。古本屋さんや Amazon にはあるんでしょうけど。

堀:この本は1970年代に、アメリカ型の経済主義が、ヨーロッパや南米、日本など世界中に帝国主義的に広がっていくのを、単なる市場原理の広がりととらえるのではなく印象操作・大衆操作・世論操作が関わっているんだということをはじめてアカデミックな観点で提唱した本です。今はマーケティングや PR が当たり前のように受け止められているけれど、当時シラーがそれを批判的にみていたんです。メディアを使って人々の潜在意識に語りかけてものを買わせるということ、圧倒的資本力で人々の心の中に侵入して消費の意欲を形成していくということは非常に汚いし、その土地土地の文化を壊しかねないということが書かれていると聞いて、読んでみたいなと思ったんですが、もう廃版ということで、すぐには買えないんです。

千々和:そうですね。

堀:今はインターネットで検索をすればなんでもわかる。でもそれが本当のことなのかはよくわからない。とにかく情報が溢れている。僕らのいろんな思考や消費行動が外部からの要因でどんどん固まっていってしまうような時代に、まだネットが出ていない時代の世論操作の研究はどういうものだったのかというのを改めて読んでみたいなと思ったんです。

千々和:堀さんはこの本を読んでいないし、目次すらみていません。僕だけ今目次をざっとみてるんですが、確かに、今読むべき本のひとつといえる気がします。

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堀:マスメディアの元祖はヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)の活版印刷です。たぶん中学校の歴史で出てくると思うんですが、要は印刷の技術です。ヨーロッパで1400年代に開発されたとき、一番最初に出版されたのは聖書です。今まで手書きだった聖書を、活版印刷で大量につくることができるようになりました。聖書が宣教師たちによって広められていき、印刷されたものが更に広まっていき、活版印刷がキリスト教圏を広めていく重要なファクターになっていくんです。なにがポイントかといえば、新しいテクノロジーは非常にコストがかかるので、活版印刷を使って印刷をできる人はものすごく限られていた。時の宗教であるキリスト教は、権力そのものだったのでそのコストをかけることができた。彼らは出版技術を使って、一番に大衆に自分たちのことを訴えかけることができたわけです。
ところが技術というのは徐々にコストが下がっていきます。最初は1台しかなかった活版印刷機が2台になり、3台になり、そのうちに「あーこうやってつくればいいんだ」ということでほかの人たちもつくりはじめ、あっという間に町中で活版印刷が溢れていって、相対的にコストが下がった。コストが下がると今までは宗教界にいる特定の人たちしか使えなかったのが、今度は貴族がそれを使って自分たちの情報を交換し合う業界紙をつくるようになる。ここからイギリスではじめて「新聞」が生まれるということにつながります。
貴族が政治の情報交換をするためにつくった新聞が、出版物として広まっていく。そしてコストはどんどん下がっていくので、大衆が「俺たちにも新聞を」となって情報共有がはじまって、市民革命が起こるわけです。今までは分断されていた一人ひとりが新聞によって「こんなの許せねえ!」とか、「こんな風に思っているやつがいるんだ」、「このイラスト・デザインは秀逸だ」といってつながっていき、団結しようとする。それから市民革命が起きて貴族社会が葬られていく。その後、電信・通信技術が広がっていき、その果てにあるのが放送、ラジオとテレビです。更にコストが下がっていくから、裾野が広がっていく。で、現代です。
初期投資ほぼ0円で、定額のパケット通信料さえ払えば、だれでも情報共有ができてつながることができる。グーテンベルクからはじまったマスメディアは、コストの低下とともに、今ようやく私たち個人のところに降りてきたんです。
シラーが一番バリバリやっていた時期は、テレビの時代です。そしてそれまでの映画、ポスターを含むいろいろな広告プロモーションが、大衆社会でまさに花開いている最中なので、おそらくそのときの世論操作の研究がこの本に書かれているんじゃないかと思います。

千々和:この本が出たときは、ウォーターゲート事件の後で、シラーが国際コミュニケーション学会副会長を務めていました。アメリカのマスコミが都市暴動について情報を差し止めるという協定を結んでいたということが暴露された契機となったのもこの本らしいですね。

堀:今の時代の答え合わせがいろいろできそうだなと思ってますます読みたくなりますね。

(2016年10月9日@恵比寿文化祭)

続きは2/2

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