EVENT REPORT

今夜は、映画プログラムの話をしよう――映画宣伝デザインの第一人者、岡野登さんと語る 2/2

【ゲスト】岡野登

【聞き手】小山田那由他

EVENT REPORT

今夜は、映画プログラムの話をしよう――映画宣伝デザインの第一人者、岡野登さんと語る 2/2

【ゲスト】岡野登

【聞き手】小山田那由他

映画プログラムは買う派? 映画をみる前、それとも、みた後に買いますか? 今までで一番気に入っている映画プログラムは? 後半は、岡野さんと映画好きのみなさんとのディスカッションの様子をお送りします。映画プログラムへの様々な意見・質問が飛び交いました。

OVERVIEW

2016.07.28(木)

ゲスト:
岡野登(Cipher.)
聞き手:
小山田那由他(株式会社コンセント Service Design Div. サービスデザイナー / アートディレクター)

INDEX

  1. 「どんなときに映画プログラムを買いますか?」
  2. 「岡野さんが映画宣伝デザインをはじめたきっかけは?」
  3. 「手書きのポスターやプログラムはなくなってしまった?」
  4. 「映画関連グッズはどうやってつくっているのでしょうか?」
  5. 「『ノルウェイの森』のプログラムについて聞きたいです」
  6. 「いくらならプログラムを買いますか?」

「どんなときに映画プログラムを買いますか?」

(この記事は1/2のつづきです)

小山田:では第2部、映画プログラムはこれだ! というテーマでディスカッション形式で進めたいと思います。では、まず、どういったときにプログラムを買いたいと思いますか?

観客1:勢いで買って、一回みたらそのまま戸棚にいれて、引っ越しのときに思い出すという感じです。だから電子版があっても買わないです。お土産という話はしっくりきました。

観客2:私は映画は映画館でみると決めていて、年間300本位みます。脚本の載っているプログラムを内容の確認をする為に買います。古本屋では、こんな映画があったんだ、昔はこんなことをしていたのかという驚きとともに買います。

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観客3:好きな女優さんや俳優さんがいたり、このシーンが画的にとても素敵だ、印象的だと思う写真があったりすると、写真集感覚で買います。あとは映画によくわからない部分があって、それを理解したくて買う。あまり見返すということはなくて、記念品という感覚はあります。

観客4:アニメ系の映画は、声優さんの顔や裏設定が知りたくて、気に入った映画をもっと知りたいと思って買います。それでプログラムを読んだ後に、2回目をみます。展開はわかっているので、1回目ではわからないことに気がつけます。

岡野:僕は、1回目はこの映画はどういう展開になるんだろうとお客様目線でみるのですが、2回目、3回目、4回目……と繰り返すうちにみえなかったところがみえて、監督が意図的にフレーミングしているんだな、ここは隠しているんだなとか、気がつけます。つくり手の視点に近づいていけているのかなと感じますね。
洋画のプログラムをつくる場合だと初見では字幕がついていないこともあります。フランス語がわからないからいきなり泣き出す男とか、展開が全然わからない。字幕がつくと、意味深い台詞をいってたんだなとわかる。一度皆さんも字幕がない状態でみるとおもしろい体験ができるかもしれないです。

小山田:では、最初はビジュアルをみるんですか。

岡野:そうですね。最初は頭を空っぽにして純粋にお客さん目線でみるようにしています。どうしても仕事目線でみるとみ慣れてしまうところがあって、これは売りだな、みせ場だなというのは勿論ありますが、映画自体を楽しめなくなってしまう面もあります。最初は完全な受け身になって、純粋に映画を楽しむということは大事だと思います。

「岡野さんが映画宣伝デザインをはじめたきっかけは?」

小山田:デザイン、アートディレクションに関して、岡野さんに質問がある方はいますか。 

観客5:映画のプログラムをやることになったきっかけを聞きたいです。

岡野:どうやったら映画のデザイナーになれますかとよく聞かれるのですが、特に目指していたわけではないんです。
映画の広告はふつうの広告とは違って、関わることでなにかが自分の中に残ると思いました。「つまらない映画の依頼が来たらどうするんですか?」 と聞かれるんですが、僕はつまらない映画でも得られるものがあるんじゃないかと思っている。どんなにおもしろくなくても、この音楽いいよね、衣装が可愛いよねといったことがあります。映画に教えてもらうことがたくさんあるんです。映画は消費するものじゃない、だから映画の宣伝を続けていったら自分の中に残るものがあるんじゃないのかなと思って続けていただけで、目指していたわけではないです。

観客5:では、もともと映画が大好きということではないんですね?  

岡野:映画は小さいころから結構みていましたけど、高校で部活が忙しくなって全くみなくなりました。だけど大学のときの彼女が映画が好きでスター・ウォーズを何十回もみに行っていて、なんでこの人は何十回もみに行くんだろうと興味がわいたのと、デートの口実で映画を誘うようになった。その恋愛自体は終わってしまったのですが、武蔵野美術大学に通って、吉祥寺でオールナイトで片っ端から映画をみるようになって、大体3本目位から記憶が無くなるんですけど……それでどっぷりはまっていったというのはあります。

観客5:さっき映画とデザインが並走して走るような感じだとおっしゃっていました。映画制作とデザインの関わりをもうすこし聞きたいです。

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岡野:関わり方にはいろいろあります。映画ができてから、どこにかけるのか、どういう人にみせるのかという段階で仕事が来る場合もあります。逆に台本しかでき上がっていなくて、キャストも決まっていない、どうなるのかまだわからないという早い段階から、ゼロからでき上がっていくのをみながら宣伝を考えていくという場合もあります。
どちらがやりやすいかといえば、どちらもいろいろな側面があります。映画が完成している段階でやるのは簡単ではあるのですが、後から、「このシーンがあったらよかったね、あのシーンの写真が欲しかった」といったことが結構あるんです。たとえば動画でみると印象に残るけど、スチールでみるとそんなに迫力がない、表情がすこし違うといったことがある。一から関わると、前もって撮影ができたり、それをおさえておいてねと言えたりするので、メリットはあります。でもやっぱりでき上がってみないとその映画のおもしろさはわからない……映画制作のどの段階でデザインに関わるかによってデザインの進め方は違います。

観客6:映画プログラムは表紙や内側も、あまり淡い色がないように思いますが、何故ですか。全体の世界観が黒いように思います。

小山田:それは業界のセオリーみたいなものですかね。本だと、緑の本は売れないというセオリーがあるらしいです。

岡野:映画プログラムは黄色です。黄色はあたらないというのがあります。だけど『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』があたると、黄色も出て来た。黒が売れているということはないと思いますが、ジャンル的に重い映画は黒っぽくなる傾向はあると思います。

「手書きのポスターやプログラムはなくなってしまった?」

小山田:ほかに、デザインに関して聞きたいことはありますか。

観客7:ポスターデザインについて昔と今で違うことはありますか。昔は縦長で、2枚綴りの判型がありました。そのような判型の変化をどう考えますか。  

岡野:ぼくの時代もすでに縦長はなかったのでわかりませんが、おそらく劇場のどこに飾るのかということだと思います。昔はプログラムピクチャー*1と呼ばれる2本立て興行で、必ずポスターが2本並んでいたり、ロビーカードといって場面の写真が劇場の中に飾られていたりした。あとは、今はもう看板屋さんもいないですけど、手書きで描かれている看板などもありました。俳優本人に全然似てないけどあのタッチはいいんじゃないかという人もいます。昔はあの看板があってポスターがあってロビーカードがあったのですが、劇場がだんだん変わっていって、看板よりは大型プリンタで出力しちゃった方がいいんじゃないかとか、電飾を入れた方がいいんじゃないかということになってくると当然宣材のツールも変わってくる。チラシのサイズ自体は変わらないですが、昔は裏面は一色でしたし、写真もそんなに載ってなくて途中からカラーが当たり前になった。時代によって映画の宣伝はどんどん変わっていってます。

観客7:昔のプログラムだと表紙が手書きのものがあると思うんですが、今はビジュアルは映画の中の写真が多いと思います。手書きは利用されないですか。

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岡野:おそらく昔のプログラムに手書きが多いのは、CG がなかったせいだと思います。だからイメージを膨らませて描いてもらった方が、いいたいことが表現できるということがあって、ポスターも手書きが多かった。今は写真の段階で素材ができ上がったりしているので、すこし癖をつけたいとか空気をつくりたいということでイラストを起こしたりもしますけど……あえてイラストにしなくちゃいけないという理由はあまりないですね。

観客7:ポスターだと野口久光さんのようなデザイナーがいましたが、今はああいう方はいないのですか。  

岡野:野口さんは別格ですよね。文字もすべて手書きですからね。あの人がいたから日本の映画の宣伝が進化したといえます。本格的な画家が絵を描くということが進化してポスターになったということだと思います。今のデザイナーにそこまで画力があるかといわれるとそういう方は少ないでしょうね。

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*1 プログラムピクチャー
1950年代から、日本の劇場で2本立て興行がはじまる。2本立てプログラムの穴をうめる為に量産された映画のことをいう。
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「映画関連グッズはどうやってつくっているのでしょうか?」

小山田:ほかに質問がある方はいますか?

観客8:プログラムだけでなくグッズも販売するときがあると思いますが、グッズを出す出さないの判断はどうしているのですか。  

岡野:プログラムは、実は配給会社がつくっていなくて、別に部署があったりルートが違ったりするんです。だから途中からデザインが変わりますし、商品として扱う場所が違うというのはあります。グッズ、力をいれてつくってますけど……だれがやっているんでしょう。

小山田:アメコミ系の作品だとプログラムの最後の1ページが通販の広告ページになっていることがありますよね。

岡野:僕は『劇場版 SPEC』をやったときに、キーホルダーをつくったのですが、写真をいかしてというよりは、キャラクター化したもの、変わっているものをおしているのかなと思います。

「『ノルウェイの森』のプログラムについて聞きたいです」

いしかわ:いしかわこうじといいます。僕は絵本作家をやっていて、岡野君とは武蔵野美術大学のときの同級生です。『ノルウェイの森』のプログラムはすごく綺麗なんですけど、これはどうやってつくっているのですか?

岡野:パール系の箔をおしてます。

いしかわ:箔なんだ! これはざらざらしたかなり変わった紙ですよね。

岡野:『ノルウェイの森』はプレスのときは、簡略版ですがちゃんとフルレコードサイズのものをつくりました。プログラムでは予算的にむずかしくてできませんでしたが……もう一つの、このバージョンは、ほとんどの人がみたことがなくて、海外に売る為につくったプレスです。『ノルウェイの森』の映画をつくりますということと、トラン・アン・ユン(Trần Anh Hùng)監督がつくるということだけ決まっていて、キャストは決まっていないけど出資をしてくださいというものです。だから映画はまだなにもでき上がっていない状況でイメージをつくって欲しいといわれて、原作は勿論みんなが知っている作品ですが、映画の写真を1点も使えないですし、本当にイメージだけをふくらませてつくりました。村上春樹がすごく好きだったので、この仕事が来たときにもうこれで辞めてもいいと思ったくらいです(笑)。昔いしかわ君と一緒に神戸に行って動物園とか村上春樹の世界を……。

いしかわ:岡野君が村上春樹を好きだって覚えてたからすごく嬉しかった。

岡野:『羊をめぐる冒険』から、ほぼ初版で買ってます。ハルキストというわけでもなく、純粋に次の新作が楽しみなんです。村上さんが直接協力はできないけれど、一応この監督で、ということはオッケーをされた。実は村上さんの作品はあまり映画化されてないですよね。オッケーがでないのかわからないですけど。こういう形でプロジェクトに関われて間接的ですが、ご本人にもみてもらってオッケーをもらっているということで記念になるような映画でした。

いしかわ:書店だと、こういう判型は、角が折れるとか、扱いづらいといわれそうです。そういった制限はプログラムにはないのですか?

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岡野:たぶん本棚にいれたらほぼほぼ折れますね。劇場で並ぶときはなるべく綺麗にと……僕はゴダール(Jean-Luc Godard)の『愛の世紀』という映画をやったときに表紙を白にしたら、汚れるといわれてすごく劇場から怒られたことがありました。だから、あくまで劇場の協力があって売れるもので、書店というルートで売れるかといわれたらたぶんむずかしい。

いしかわ:『ノルウェイの森』は一つひとつの工夫がすごくおもしろかったです。

「いくらならプログラムを買いますか?」

岡野:逆にこういった凝ったものは皆さんにとってどうなんですか。デザイナーが勝手にやってるじゃんという感じなのか、プログラムをたくさん集めている方はサイズが同じ方が収納しやすいというのはありますか。  

観客9:デザイナーさんの遊び心を楽しめるパンフレットはいいなと思います。もっと遊んで欲しいと思います。

岡野:昔は凝れば凝っただけ売れた時代もあって、1,500円で売っていたこともあるんです。大島依提亜さんのデザインした『シングストリート』は豪華版と通常版があって、豪華版はレコ直の音楽もダウンロードできて1,200円、同じ形態なんだけどシンプルなやつが900円で出された。そうすると1,200円が売れているという話を聞きました。皆さん、プログラムはいくらくらいだと買うのでしょうか?

観客10:私は3,000円でも買いたいと思います。写真集の価格と比較して、パンフレットを考えるからです。

岡野:単館ブームのときは、1,000円でも2,000円でも売れたんです。凝れば凝るほどみんなが喜んでくれたのでこっちもつくりがいがあった。シネコンになってプログラムの売り方自体にも問題はあるかと思うんですが、1,000円でも高いという話になって、今は700円でも高いといわれてしまう。でも700円だとやれることが結構限られてしまって、本にするだけでその値段になってしまうんです。みなさんに売れる金額が徐々に下がって来てしまっている。

観客11:増刷をすることもありますか。

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岡野:最近では『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が爆発的に売れてあっという間に2週間で劇場から消えました。あれは中身が濃くて、メカや車をすべて説明してくれているというすごくありがたいつくりになっていた。ああやってマニアックに凝れる映画は中々ないので、部数の読み方がむずかしかったと思います。プログラムは劇場が売れる部数を見込んで購入しているので、書店のように予想以上に売れてしまうと追加注文してからになってしまって、欠品状態が続いてしまう。あんまりたくさん買って売れないと返品もたぶんできないだろうから、劇場は少なく買うんだと思います。

小山田:ここで第2部を終了いたします。この後も岡野さんとお話したい方は是非お話しされていってください。本日は長い時間ありがとうございました。

(2016年7月28日@amu)

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