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【インタビュー】個で終わらない食

【インタビュイー】MIHO

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【インタビュー】個で終わらない食

【インタビュイー】MIHO

2016年2月5日(金)開催のイベント「今日のごはんがつくるもの――食から考える自分の未来」のゲスト・MIHOさんに、食にまつわる活動の原点ともいえる体験や、食に対する考え方をうかがいました。

気づいたら、「こなす」ようにごはんを食べている

私たちは、知らず知らずのうちに「こなす」ように食事をとってしまうことがあります。昼休み、買って来たお弁当を職場のデスクで仕事しながら食べることが普通になっていたり、夜遅くにお腹を空かせて帰宅し、コンビニのおにぎりやカップ麺をかきこんだり……。思い当たる節がある人も、少なくないのではないでしょうか。

残念ながら今の時代でも、だれもが自由に食事できるわけではありません。そんな中、自由に食べられる環境にあってもそこに気づかない、あるいは興味を持たない人もいます。今回は、そのような料理に興味のない人たちにこそ届けたい、という想いで食にまつわる活動をされているMIHOさんにお話をうかがいました。

MIHOさんは現在パリを中心に広告や雑誌のフォトグラファーとして活動されていますが、それにとどまらず自らフードマガジン『saji』の出版や食のイベントなども手がけています。

2016年1月に開催されたお雑煮のイベント(MIHOさん監修)

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2016年1月に開催されたお雑煮のイベント(MIHOさん監修)

MIHOさんが監修を手掛けるお雑煮のイベントは2016年1月で第2回目を迎えた

 

『saji』vol.5

『saji』vol.5

この『saji』という雑誌は、ご自身が28歳のときに不摂生から体調を崩されたことがきっかけで、若い人たちに食事の大切さを伝えたいと立ち上げたものです。コンセプトは「いま食べているものが、10年後のカラダをつくる」。

ビジュアル的にも日本で書店に並ぶ料理本とは明らかに異なり、可愛いイラストの表紙や鮮やかな写真、遊び心のある演出、外国の写真集のようなデザイン……。料理をつくらない人でも、つい手にとりたくなる一冊です。

『saji』vol.5より

『saji』vol.5より

本にはレシピも載っていますが、「料理をつくってもらうという目的はだいぶ先にある」と言います。「イラストが可愛い」などふつうの料理雑誌とは別の入口から、食の楽しさや自由さを知ってもらうことのほうが、大切だと考えているそうです。ほかにも、著書『リンゴを半分に切るだけで、あなたの人生は変わる。』(プレジデント社)では、会社のデスクでコンビニ弁当を食べている人でもふだんづかいできる「食べることのアイデア」を提案。さまざまな角度から、食の楽しさを伝えようとされています。

食べることは、いつも生きることと隣り合わせです。どう食べるのかは、どう生きるのかにつながっているのかもしれません。さまざまな活動で食に携わるMIHOさんの根本にある考えを紐解くことで、食にまつわる些細でも大きな意味を持つものに、気づかされました。

寂しかった、子ども時代の一人ごはん

――『saji』は「いま食べているものが、10年後のカラダをつくる」がコンセプトになっていますが、実際に『saji』を拝見すると、単に料理を見せるのではなく、コップを置いた跡が残った紙ナプキンなどのギミックがあったり、随所に楽しませる仕掛けがなされていて、「おいしい」や「からだにいい」とは違ったメッセージが隠されているように感じます。健康面以外で、MIHOさんが伝えたいこと、考えていることはなんでしょうか?

MIHO:両親は比較的仕事が大事な人だったのであまり家にいなくて、私は一人でごはんを食べることが多かったんです。『saji』のvol.4でだいぶそれを描いていて、最初にお母さんからの置き手紙があって、「冷蔵庫に入っているものをチンして食べてね」みたいなことが書いてあるんですけど。

『saji』vol.4

『saji』vol.4

今のお母さんたちが子どものころは、きっとお母さんが毎日いて、ごはんをつくってもらって食べていたと思うんですね。でも今は日本では共働きがけっこう当たり前になってきて、子どもが一人でごはんを食べることが多くなっている。本当に小さい時は一緒にいるけれど、小学生ぐらいから一緒にごはんを食べられなくなってしまう。

さらに、ファミリーレストランに行けば、一人ひとり違うごはんをオーダーできたりする。なんだか、「食べる」ということが、きっと昔より今のほうがもっと個になりつつあるなと思うんです。

私は一人でごはんを食べていたからわかるんですけど、しゃべらないで食べると本当にあっという間に、5分ぐらいで終わったりするじゃないですか。でもきっとそんなに早く食べていることを想像しているお母さんは少ないと思うし。もう少し「食べる」ということが、人と人をつないで幸せなことになればいいなっていう想いがあります。

――なるほど。それはけっこう昔から、ずっと感じていたことなんですか?

MIHO:そうですね。たぶん小さいとき寂しかったという気持ちが、どこかにあったんだと思います。だから、しょっちゅうおばあちゃんの家に泊まっていたんですよね。

レシピ以上のものを受け継ぐ

――おばあちゃんがつくってくれたもので、印象的な料理はありますか?

MIHO:ハンバーグです。

――どんな思い出がありますか?

MIHO:おばあちゃんは、私がそれをすごく好きだと知っていたから、家に行くたびにつくってくれていたんです。そのハンバーグが本当にふわっふわで、なんであんなにふわふわになるのか、いまだにわからないんですけど。

――ご自分でもつくってみたりしましたか?

MIHO:何度もつくってるんですけど、真似しても絶対に同じようにできないぐらい、本当にふわふわだったんです。材料も普通で、たぶんすごくシンプルなレシピなんですよ。オーブンを使うとふわっと膨らんだりしますけど、おばあちゃんはフライパンだけでつくっていたのに。たぶん私のことを考えてくれていたから、あんなに美味しかったんだろうなって思います。なので、私にとってはすごく特別ですね。

おばあちゃんはだんだん手が痛むようになって、ハンバーグをつくれなくなっちゃったんですよ。つくっていても手が痛かったみたいで、「ごめんね、無理なんだ」っていうこととかがあって、もうそのひと皿を食べられなくなるんだって感じて……。今もすごく食べたいけど、もう食べられない。

――そのおばあちゃんの料理や、つくってくれたことが、今のご自身に影響しているなと感じる部分はありますか?

MIHO:「美味しいものを人に食べてもらいたい」っていう基本的なところは、おばあちゃんの影響ですね。とにかくうちのおばあちゃんは食べることがすごく好きで、入院する直前まで、あれが食べたい、これが食べたいって言いつづけた人なんですよ。

あと、泊まりにいくと、毎日がちゃんとおもてなしされていたんです。納豆にうずらの卵と青のりを入れてくれたりとか、本当にちょっとしたことなんですけど。でも、おばあちゃんはそういうことを毎日普通にやっていたんだと思うんです。

だからやっぱり、「食べたい」という欲求みたいなものはすごく受け継いでいるし、純粋に「美味しいものを食べてもらいたい」っていう気持ちを、知らない間に学ばせてもらったと思います。

(2016年1月11日)

「豊かな食」ってなんだろう

こういった気持ちをベースに、MIHOさんはフォトグラファーとしての活動と共に食にまつわる活動をつづけています。その中で、「本当の食の豊かさってなんだろう?」ということを考えるそうです。

「高級なごはんを食べるから豊かなわけではなくて、だれか大切な人と、大切な人がつくったおにぎりと味噌汁だけでも、豊かになれると思うんです」。おばあちゃんがつくったハンバーグや、うずらの卵と青のり入りの納豆を食べるMIHOさんは、まさに「豊かな食」を感じていたと思います。

だれかの想いのこもった料理をだれかと一緒に食べることは、当たり前ではありません。それでも、生きることと切り離せない「食」だからこそ、より豊かなものにしようという思考は、本来ごく自然なことではないでしょうか。一人のときでも、ただ機械的に食事を摂るのと、例えば「いま食べているものが自分の将来の身体になる」と考えて食べるのでは、「豊かさ」に大きな違いがあるように感じます。まずは自分の食生活を少しでも豊かにしようと思ってみることから、はじめてもよいのかもしれません。その先に、だれかにつくってあげること、だれかにつくってもらうこと、だれかと一緒に食べることなど、個で終わらない食の形や、自分なりの楽しみ方が見えてくるはずです。

 

 

【MIHOさんのトークイベントを開催しました】

MIHOさんをゲストに迎え、トークイベント「今日のごはんがつくるもの――食から考える未来の自分」を、2016年2月5日(金)に開催しました。イベントレポートはこちらからご覧ください。

食に向き合うーー「今日のごはんがつくるもの」レポート1/2

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