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音楽のように絵本を作る。ワイルドスミスの世界へ。 イギリスを代表する絵本作家ワイルドスミス。
私たちの想像力を刺激しつづける、
原色、生命感の謎に迫る。

【インタビューゲスト】ブライアン・ワイルドスミス、藁戸さゆみ

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音楽のように絵本を作る。ワイルドスミスの世界へ。 イギリスを代表する絵本作家ワイルドスミス。
私たちの想像力を刺激しつづける、
原色、生命感の謎に迫る。

【インタビューゲスト】ブライアン・ワイルドスミス、藁戸さゆみ

絵本作家ワイルドスミスとは?

はじめに、ワイルドスミスさんってどんな絵本作家か教えてください。

ワイルドスミスは、イギリス出身の絵本作家で、現在は南フランスに居住しています。1930年、イギリスのヨークシャーという炭坑の町に生まれました。ヨークシャーは、「ムーア」と言われる荒れ地で、冬は厳しく毎日吹雪があり、彼は冷たい風を頬に浴びながら暮らしていたそうです。他方、炭坑の町なので黒い煙やムーアの沼、イギリス特有の雨が多くあまり色のない地帯で育ったことによって、ワイルドスミスは太陽に対する渇望が小さい時から芽生えていたようですね。あとワイルドスミスは、子どものころ、いつも「ムーア」の大地が遠くまで見渡せる、地平線の彼方に深く深く誘いこまれる体験をいつもしたそうです。

絵本作家をどのようにして目指されたのですか?

中学生の頃は科学が得意で、科学者になりたいと思っていたそうです。ある日、神の啓示を受けて、自分の進むべき道は美術の道と気づいたといいます。それですぐ、美術学校に移ります。数学が得意で音楽が好き。この感情を抱えながら美術学校の道にはいって、ポートフォリオを持っていろんな出版社に売り込みをしたそうです。1960年に、オックスフォード大学出版局(Oxford University Press)のメーベル・ジョージ(Mabel George)という女性編集者と運命的な出会いを果たして、少しずつ挿絵の仕事をもらいました。その編集者が何故彼を起用したかというと、それまでの絵本は文章主体のもので、絵はただそれの補足でしかなかった。メーベルは子どもに対しては真の芸術を、絵本を通して与えなきゃいけない、そのためには真の画家による絵が絵本に必要だと思っていた。そこでワイルドスミスに白羽の矢が立ち、できたものが、『ワイルドスミスのABC』(原題:Brian Wildsmith’s ABC)です。この作品でケイト・グリーナウェイ賞を受賞し、絵本作家としてのデビューを果たしました。WS_ABC_2

色と色との関係が感動を生む

 

おもしろい経歴ですね。読者からの反響はどうでしょうか?

日本と母国であるイギリス、アメリカ、3年ぐらい前から中国を始め、アジアでもかなり翻訳されるようになって、ワイルドスミスの絵本が人気になっています。
まず色彩に圧倒されるという声を聞きます。原色に限らず、コラージュも多用しているんですが、自分で絵の具を混ぜて作る色の他に、市販のラッピングペーパーなどを切り抜いて、自分の作品の中に入れこんで表現するのです。自分で作った色と、既成の作られた色とがすべて作品として収まって、ひとつのワイルドスミスの世界観を形づくり、そこでたくさんの色を目にすることができます。 よく読者から、絵本になった時に原画の色が忠実に印刷されているかと聞かれます。ワイルドスミス本人は、自分の表現した原画の色がそのまま絵本に出ているかが問題ではないと言います。「色と色の調和」がきちんと絵本の中で表現されていれば、それでいいと言うのです。読者は、色に反応しているのではなく、「色と色の関係」に圧倒されているのです。

色と色の関係性とは、おもしろいですね。

ワイルドスミスの言葉を借りると、絵本とは、私たちが生きている大地であり、地球であり、私たちの周りにあるものの本質を、絵として表現しなくちゃいけない。言葉では言い表せない、夕日や風などの抽象的なものも、絵画として表現することによって、その絵本を手にとった人が心になにかを呼び起こすものでなくてはならない。そうでないと、魂が、この絵本から奪い去られてしまうのだと言います。

その生命が、さっき言った色と色の関係や、組み合わせにつながっていくのですね?

そうです。ワイルドスミスは絵本制作をよく音楽に例えるんです。物と物、色や形が、ある音符のようなリズムを持って表現されなければならない、と言います。

音楽のような色の関係性が、典型的に出ている作品というとありますか?

『Brian Wildsmith’s 123』という『ABC』と同じ年くらいに描かれた絵本があります。ワイルドスミスは、数字というのはある特定のものを指すまでは、非常に抽象的なものだと言います。下の絵の中の形と色の配置が、すごくリズミカルに見えませんか? そういうところが、私はすごく音楽的だなと思います。BW_123

動物もたくさん描いてらっしゃいますね。

ラ・フォンテーヌの『うさぎとかめ』や、『きたかぜとたいよう』など、寓話の挿絵があります。そのあと、フランスに移る頃に、動物を主人公にした、物語絵本をつくりだします。

確かにこれも、色と色の関係性がすごいですね。

動物と葉っぱと、単に原色が強いということだけじゃなくて、色の全部の関係が配置されています。だから、絵本を開いた瞬間に、日常忘れていた感覚が、頭の中にイメージが膨らんで、心の中にも光が満ちあふれる。例えばジャングルみたいな森の中に、ヒョウがいます。ジャングルの土の匂いとか、ひんやりした感じとか、草が擦れる音や柔らかい感じとか、ヒョウの糞がどこかにあるかもしれないとか。子ども達はそれを頭の中や体で、反応しながら想像するんです。ワイルドスミスは、子どものために、この世界の美しいものや不思議さを楽しんだり驚いたりして、生命の根源を知って、喜びや幸せを感じてほしいと描いています。この絵本はきっと、大人になってしまった私たちにかつての子どもの時に感じた感覚を、取り戻させるひとつのツールになるんじゃないかと思います。

絵本美術館の仕事

絵本美術館では通常どんな仕事をされていますか?

美術館外観_copyright
小さな美術館でスタッフも少人数です。美術館を開けてお客さんを迎え入れて、それから展覧会を定期的にしていくという、美術館の接客というものが主になります。あとは、当館はワイルドスミスのアジア地区の代理人でもあるので、画像などの著作権管理。それからショップがあるので、いろんなグッズを自分たちで作ってます。

自分で作っているのですか! お客さんの反応というのはどうでしょうか?

子どもはやはり、あまり原画は見ずに、絵本に飛びついていって開いたり、絵本と関係なく走り回って遊んでいたりします。当館が建っているのが静岡の伊豆高原という立地なので、観光施設という役割が非常に強いです。お客さんは伊豆に来た、いろんな美術館や施設の中の一つとしていらっしゃるので、ワイルドスミスを知らない方も非常に多いです。層としては、10代から20代のカップルや年輩の方など、特に大人の女性が多いです。赤ちゃんなど家族連れは、GWなどの期間、非常に多いですが、年間を通して大人の方がいらっしゃることが多くて、やはりそういう方は、はじめに言ったように、ワイルドスミスの色彩にすごい魅了された、嬉しかったとおっしゃいます。

イギリスではどういう評価をされていますか?

bw_and_children
だいたい1960年代ぐらいから、絵本の第二次黄金期と呼ばれるものが、イギリスで始まるんですけれども、そのきっかけを切り開いた偉大な絵本作家としての尊敬を集めています。

お仕事は楽しいですか?

毎日ワイルドスミスの絵に囲まれて仕事をしているので、またお客さんとも、毎日の仕事の中で接することができるので、楽しいです。何より、ワイルドスミスと直接話せることが、一番嬉しいですね。彼から「Dear Sayumi」とFAXが届くたびに、幸せだ!と心から思います。

絵本の力、可能性

絵本の可能性、絵本の力とはどういうものですか?

日常わたしたちは仕事とかをしていると、計算や言葉で何かを伝えなきゃいけないという割合が、多く占めると思うんです。いわゆる芸術的とか直感的なものへの切り替えが、うまくできないということがあるので、生きていく苦しさにもつながってくるのじゃないかなと思うのです。そういう人たちにとって、絵本を常日頃開いて想像を巡らせて、自分の体や五感全部をフル活動していろんなことを感じ取って、絵本に身を投げ込んでもいいような時間は貴重です。体の中のざわめきとか、言葉にできない感覚をつかむ。絵本を開いて絵本で訓練していくことで、生きる感覚や色んなアイディアにつながると思うんです。
それから絵本は、ページを繰って終わったらそれで終わりと、私たちは思いがちですが、ワイルドスミスは自分の絵本をきっかけに、さらに皆さん一人ひとりが、自分の物語を想像していってほしい、その想像のきっかけとして自分の絵本を使ってほしいと言います。
例えば『ABC』の絵本でゾウが描かれていますよね。ワイルドスミスは、あなたが例えばゾウを赤い色に塗ればそれでいいのです、それがあなたのゾウなのですと言います。そういうのがすごく素敵だなと思います。BW_挿絵

「アクティブ・イマジネーション」というか、自分で作るということを言うんですね。

そうです。どんどん自分で描いたり、物語を作ったり、日常的に楽しんでほしいということを、よく子どもたちに対して言っていますね。

いま日本では、絵本を読む人口は多いですか?

多くなってきていると思います。絵本を作りたいっていう方も多くなってきているように思います。保育学校や美術学校の方が、先生と一緒に学校単位で来られることが、多くなりました。

子どもと大人の世界を行き来するワイルドスミス

藁戸さんが一番好きな作品について教えてください

animals ひょう
『どうぶつ』(原題:Wild Animals)です。私は絵本を開いた時に、絵本の中の文字が非常に煩く感じる時があるんです。文字を読むことで、スッと絵本に入れなくなる。そういう意味で、『どうぶつ』などは、「何かいる。あっ、これがヒョウなんだ。なんかこう、叫んでる。」などと感じてほしいから、きっと画面いっぱいに絵を描いてるんだとも思うんです。だから非常に、私にとっては読みやすい、世界に入りやすい絵本なので一番好きです。

最後の質問です。ワイルドスミスさんが子供のとき、丘の上の向こう側をいつも見て、すごく気になったと言われましたが、それはどんな気持ちの表れなんでしょうか?

要するに子どもは、目の前のことしか考えないから、向こう側のことは考えないと思います。でもワイルドスミスは、丘の向こうに何かあるって考えていた。もしかしたらワイルドスミスは、子どもと大人の両方の世界を行き来できる力を持っている人じゃないんでしょうか。だから生死の問題も当然考えるし、目の前のことも考えるし。子どもがそのまま成長すると非常に困るでしょう。大人だけしかないのも柔軟性が無くなっちゃうから、すごく困るんです。子どもと大人の境目のところを初めて掘り起こした人がワイルドスミスじゃないでしょうか。BW_and_children2

(2011年5月 株式会社AZホールディングスにて収録。 聞き手:津田広志)

 

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