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1990年代生まれが表現する現代のグレースケールーー早稲田合同展示発表「Grayscale」作品紹介

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1990年代生まれが表現する現代のグレースケールーー早稲田合同展示発表「Grayscale」作品紹介

2018年2月10日(土)・11日(日)の2日間、amuで開催される早稲田合同作品展示「Grayscale」では、情報技術の進化で二極化が進む事象の狭間にあるグラデーションに本質的な豊かさを捉え、草原ゼミ・橋田研究室・ドミニクゼミに所属する学生たちが2つの事象にかかるグレースケールを表現した12のメディアアート作品を展示。本特集では実際に展示される作品(一部)の紹介を中心に、コンセプト設計の意図やテーマへの思いなどをお届けします。

INDEX

  1. 心臓祭器
  2. アイマイトネガウ
  3. Gray Switch
  4. chopping scope
  5. attentive caption
  6. 美術用品野生化計画
  7. anonymous review
  8. Post-truth Cocktail
  9. 一般家庭用標識
  10. Fab-and-Aid
  11. fade-in pixel
  12. Digital Bookshelf
  13. 1990年代生まれが表現する現代のグレースケール

心臓祭器

心音でつながる、生と死の世界

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ーー作品「心臓祭器」

亡くなった方の心音をデータ化し、アーカイブとして遺すだけでなく、それを自身の心音と重ね合わせることでインタラクティブな新しい弔いの形を表現。心音と鼓動を実際に感じることで「生と死」の間にたゆたうように存在する、亡くなった方との新しい関係性や思いを再発見できる作品です。

ーー「心臓祭器」の制作背景

心臓祭器は、大切な人の心臓の音を聴き、鼓動に触れたことがきっかけで制作しました。儀式や慣例を飛び越えたところで得た「人の生死に強く想いを馳せる」という経験は、もしかしたら他の人にも共感してもらえるのではないかと考えました。

ーー「心臓祭器」を通じて伝えたいことは?

この作品の制作が決定してから数ヶ月後、人生で初めて近しい親族の葬儀に参列し、儀礼を経て「弔いとはなにか」と改めて考えていました。宗教性の薄い文化の中で育った私たちは、祈りたい時の祈り方も知らなければ、生を受けた人間に必ず訪れる死について誰かとじっくり話す機会もほとんどありません。死の先にある弔いについて普段から考えて話し合うことは、生き方について考えることにもつながることに気づきました。

私たちの身近にある「生と死」に対する理想の形をやわらかく求めていくための一つの方法として、この作品を提起できたらと思っています。作品を触って感じたことを誰かと共有し、生死の間にある思いについて改めて考えることができれば幸いです。

回答:小薗江愛理

 

アイマイトネガウ

叶いやすい言葉まで曖昧にする

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ーー作品「アイマイトネガウ」

願い事が曖昧化されることで叶えやすくなった気になる…という体験ができる「アイマイトネガウ」。具体的に語られていた「願い」に固執して、自分の未来の選択を無意識に奪うことにつながるそれぞれの言葉から具体性を減らし、曖昧な単語を増やすことで願いを叶えやすくする作品です。

ーー「アイマイトネガウ」の制作背景

自分自身が七夕や正月に願い事をする際、普段使うような曖昧な表現とは逆に、具体的な言葉で願いを表現していることに気づきました。具体的な言葉で語ってしまうことで、願いがその通りに叶う確率は低くなってしまいますし、叶わなかった時の落胆も大きい。そこで、その願いが「叶った」と思いやすくなるよう、具体的な言葉を曖昧化して大きな表現へと転換することを思いつきました。

ーー「アイマイトネガウ」を通して伝えたいこと

願い事は具体的に語るべきかもしれませんが、細かな言葉で表現してしまうことで、その願い事自体に自分が縛られてしまうこともあると思います。そして、願いがずっと同じ形であり続けるとも限りません。この作品に触れた方が、自分の具体的な願いによって、自分にプレッシャーを与えていないか、本当に叶えたい願いなのか、と一歩離れて自分の本心に触れるきっかけになれば嬉しいです。

回答:樺澤まどか

 

Gray Switch

機械に委ねた決定に映る「自分の意志」

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ーー作品「Gray Switch」

スイッチは「 押す / 押さない 」という2択の選択肢をユーザに提案するが、人の意志は「 0 / 1 」では割り切れないもの。人が機械に合わせた選択をするのではなく、人の気持ちに寄り添う形で選択できることを叶えた本装置は、スイッチに中間の選択肢ができる確率の要素を加えている。8割程度の押す気持ちであれば、つまみで調節して8割の確率で押されるスイッチに変更可能。どうでもいい選択時や、決断を迷った時にはスイッチに選択を任せることも。本展示では現在日常的に使われている主な数種類のスイッチをハックしている。

ーーGray Switchが生まれた背景

グレースケールというテーマを元に考案した本作品。白黒にはっきり分かれているモノをグレーに変えることによって、人の幸せへとつながるような作品を作ろうと考えたのがはじまりでした。そして、白黒を決める行為につながるモノとして身近な「スイッチ」に着目し、選択をグレー化させる手法として「確率」を用いました。この「確率」の手法は、手軽でありながら新しい出会いを与えるエンタメ性、神頼みという意味も含むところなど、スマホゲーム内で使われるガチャからインスパイアを得ています。

ーーGray Switchを通して伝えたいこと

本作品に触れることで、人の意思はUIに制限されてきたのかもしれないということ、意図しないこととの遭遇による気づきがあることを伝えたいです。例えば、ある商品を1割くらいの気持ちで買いたいと思っていても普通は買いません。でも、このスイッチを用いると「たまに買ってしまう」ということがある。そして、そこまでの気持ちでもなかった商品に触れることで、今まで見落としていた新しい価値にも気づけるのではないかと感じています。

回答:油井俊哉

 

chopping scope

人に聞こえる音を、見る

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ーー作品「chopping scope」

直接的・間接的に五感を表現する、主観的で繊細な言葉「オノマトペ」。日本でも古来より生活や文化に根付き、大きく発展してきたその言葉も、感覚の個別化が進む現代人においては、感じる言葉は個人によって多様化し、新しいオノマトペも生まれているのかもしれません。その、普段気付かない「世界の切り取り方」の違いを他者と共有できるのが本作品。他者の知覚の断面に触れる試みです。

ーー「chopping scope」の制作背景

Eテレで一番大好きな「にほんごであそぼ」をきっかけに、狂言の曲やオノマトペに興味を持ちました。古典のコントである狂言は、動きだけでなくオノマトペによって物事の強弱や物の性質などを体感的に表現します。もちろん時代や文化によって言葉は異なりますが、そういったオノマトペの違いの面白さにもっとアプローチしてみたくて、1年間このテーマに取り組みました。

ーー「chopping scope」を通して伝えたいこと

作品に自分だけのオノマトペを入力すると、同じ景色を見ていても感じるものの些細な相違があることに気づきます。同じ場所、同じ時代で過ごしてきた方がほとんどだとは思いますが、その様々なバックグラウンドの多様性を感じながら楽しんでいただけたらと思います。

回答:川島春菜

 

attentive caption

知りたい分だけ、説明が増えていく

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ーー作品「attentive caption」

作品に添えられたキャプションを通して、作品に関する情報を詳しく知ることができるが、その作品との距離感は人それぞれ。これまで作品の説明文はあらかじめ決まった長さや文体であり、キャプションの位置や向きも固定されていた。本作品は、それぞれの鑑賞者に対して機械がその属性を抽出し、その人に適切な情報量を判断して表示することで、鑑賞者は違和感なく自分にあった距離感で作品に接することができる。

ーー「attentive caption」の制作背景

人と作品の距離感の多様性を感じ取り、人に合わせてキャプションを表示させる本作品。ある展示でキャプションに書かれていた演目の順番が日によって変わっていたという話を聞いた際、今まで静的なものだと思っていたキャプションに対する概念が崩れ去りました。そこから、日にちより変更のスパンが短くインタラクティブな動的なキャプションがあっても良いという考えに至りました。

ーー「attentive caption」を通して伝えたいこと

展覧会で作品を鑑賞している人を観察していると、作品を見る時間がキャプションを見る時間よりも短かったり、傍目から見ると鑑賞者と作品・キャプションのそれぞれの関係がアンバランスに思えていました。このキャプションによって、鑑賞者と作品とキャプションの3者が良いバランスに釣り合ってくれる。そんな体験を提供できたら嬉しいです。

回答:油井俊哉

 

美術用品野生化計画

日常を美術に変える野生の額縁

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額縁とキャプションを自律化させ、額縁が自身で移動し日常をフレームで切り取る作品。そのフレームに映った景色を機械なりに見立て、タイトルをつけて作品化します。

 

anonymous review

自分の言葉は、どれだけ世の中の言葉に埋もれているのか

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画面にダミーの文字入力を表示することでユーザの文字入力に匿名性を与えるアンケート・システム。ダミーの数という離散的な値を変更することで、匿名度という連続的かつ曖昧な値を調整する作品。

 

Post-truth Cocktail

知っている味、知らない見た目

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ブースカフェスタイルと呼ばれる数層に分かれた見た目、その見た目からは想像できない味覚。五感が既知と未知の間でアンバランスに揺れ動く体験ができる数種類のドリンクを amu 内のバースペースで提供します。

 

一般家庭用標識

プライベートなハウスルールを誰もが見える標識に

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Instagram等の SNS の普及によって、プライベートな情報をパブリックに公開する流れが加速。それを逆手にとり、パブリックな存在である「標識」をプライベートな「ハウスルール」にインストール、それらを住環境にフィットさせた作品。新しいコミュニケーションツールとしての活用も見込まれる。

 

Fab-and-Aid

捨てる?治す?服の価値を見直す「絆創膏」

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服は、穴が開いたり汚れてしまった時、専門店に預けたり、修繕しなければなりませんが、この絆創膏を傷んだ衣服に当てると、衣服を着用しながらにして局所的に修繕を行うことが可能です。ファストファッションの台頭で薄れつつある服の価値を再確認できる作品です。

 

fade-in pixel

曖昧な解像度から生まれる澄んだ感性

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絵画の輪郭を曖昧にすることで新しい見え方に気づき、もとの作品がよりいっそう美しい姿で現れることを体感できる作品。透明樹脂をレンズアレイ状に造形し、ひとつひとつのレンズが一区画の中心部を拡大することで全体として解像度を下げて表現しています。

 

Digital Bookshelf

電子書籍を「本棚」というアナログな場所へ

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一覧性に乏しい電子書籍を、普段は紙の本が並べられている木製の本棚に投影。木製の本棚とディスプレイにデジタル化された本を同居させることで未来の本棚の形を提案した作品です。

 

1990年代生まれが表現する現代のグレースケール

「グレースケール」という心の機微に本質を見つめたテーマのもと、制作された上記12作品。進化する情報技術社会の中、物事が白黒の二極に分断されてしまいつつある現状、AI等のフィルタリング機能の進化によって自由であるはずの思想が決まった範囲に閉じ込められてしまう「フィルターバブル」が問題となっているこの時代。1990年代に生まれた彼らはそんな状況をどう感じているのか、テーマへの思いと共に伺いました。

ーーPost-Truthやフェイクニュースなどによって、私たちは「〇〇らしさ」や「〇〇っぽい」といった、本物かどうかわからないモノに翻弄されている。でも、世の中のものは結局すべて「〇〇っぽい」といえるのかもしれない。という話から、「〇〇っぽいの領域」に着目をした経緯がありました。また、日常生活において「楽しめるノイズ」が少なくなってきているのを実感しています。今はレコメンド機能やSNSのフォローなどによって閉ざされた考え方や経験ばかりしているように感じています。(油井俊哉)

ーー物事に白黒つけたがっている世界と、自分の心の中にある物事に対する曖昧さのギャップに戸惑い、私達は未来を夢想してもがいているのかもしれません。この展示で提示されたグレースケールという言葉は、世の中にある物事に対して「曖昧なまま受け入れる」「曖昧さをあえて創り出す」ということだと解釈しています。曖昧さを受け入れその中に豊かさを見出すグレースケールという言葉は、曖昧な自己や世界を肯定する装置ではないでしょうか。(中山祐之介)

ーー日常生活の中のほとんどのものがグレースケールだと思う。にもかかわらず白黒つけようとしている自分がいることに気付いた。(宮田泰盛)

ーー長い人生のうち、ほんの一瞬しか生きていない者(若者)にとって「0/1」で決めつけられる言葉を選択することは、困難なことなのかもしれません。我々若者は人生の中で白黒はっきり付けるための論拠となる体験や知識を持ち合わせていないからです。(姫野仁)

ーー西洋由来の二分法が必ずしも日本人にとって正しくないと気づきつつある現代で、時代に合ったグレースケールという曖昧な視点で物事を捉える面白さに気づいた。(吉満駿太郎)

ーートランスジェンダー、人間と機械、日本人の宗教性…今まで見えないように扱われていた様々な「Glayscale」がとうとう姿を現し、私たちの未来の在り方を問うているのではないかと思います。(小薗江愛理)

ーーInstargamの異常なまでの流行に違和感を覚えていましたが、グレースケールという思考を通して見ると、様々な物事が如何に我々の生活に溶け込んでいて意識されないものになっているかということがわかりました。その思考を持つだけで、抱いていた違和感が自分の中で「受け止められること」に変化して納得できました。(谷口恵一朗)

人の感情や物の状態が常に変化していく中、曖昧な自己や世界を肯定する「グレースケール」。その世界観を体験できる早稲田合同作品展示「Grayscale」は2018年2月10日(土)、11日(日)に開催です。

アンケート協力:酒井優太、谷口恵一朗、宮田泰盛、樺澤まどか、等力桂、内田有紀、川島春菜、油井俊哉、中山祐之介、姫野仁、小薗江愛理、吉満駿太郎(敬称略)

 

イベント概要

早稲田合同作品展示「Grayscale」

デジタルテクノロジーの進化で1つの事象が白黒に分断されつつあるその両極ーー「言語とクオリア」、「情報の実在と潜在」、「具体と抽象」、「生と死」、「有機と無機」ーーそれらの狭間を漂う濃淡の定まらないグレーゾーンを、早稲田大学文化構想学部と基幹理工学部の3つのゼミに参加する学生がメディアアートで表現。人の見た目、物への接し方、発する言葉等によって変化していく物事のグレーゾーンを実際に体験することができる12の作品を、2日間に渡り展示をします。

≡ 開催概要 ≡

日時:2018年2月10日(土)14:00〜18:00(開場13:30)
   2018年2月11日(日)10:00〜18:00(開場9:30)

研究室:草原真知子(早稲田大学文学学術院教授)、橋田 朋子(早稲田大学基幹理工学部表現工学科 准教授)、ドミニク・チェン(早稲田大学文学学術院・准教授)

参加費:無料(申し込み不要・入退場自由)
http://www.a-m-u.jp/event/201802_grayscale.html/

関連イベント

ありえたかもしれない今を発明する ――早稲田大学合同展示「Grayscale」

2/10より2日間に渡って “Grayscale” をテーマにしたメディアアート展が開かれます。その前夜の9日金曜日、草原真知子氏、橋田朋子氏、ドミニク・チェン氏が今回のテーマの意味と可能性をディスカッション。情報技術に関わる方、教育に関わる方、テクノロジーに関わる方が新しい視座を得られるトークイベントです。当日は、翌日から展示される作品の一部も先行して公開いたします。

≡ 開催概要 ≡

日時:2018年2月9日(金)19:30〜22:00(開場19:00)

スピーカー:草原真知子(早稲田大学文学学術院教授)、橋田 朋子(早稲田大学基幹理工学部表現工学科 准教授)、ドミニク・チェン(早稲田大学文学学術院・准教授)

参加費:無料

※本イベントは定員に達しております。

http://www.a-m-u.jp/event/201802_grayscaletalk.html/

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