ARTICLE

いま、「グラデーション」でものごとをつなぐ意味 前半――早稲田合同作品展示「Grayscale」によせて

【インタビュイー】草原真知子、橋田 朋子、ドミニク・チェン

【インタビュアー】千々和淳

ARTICLE

いま、「グラデーション」でものごとをつなぐ意味 前半――早稲田合同作品展示「Grayscale」によせて

【インタビュイー】草原真知子、橋田 朋子、ドミニク・チェン

【インタビュアー】千々和淳

早稲田大学の文化構想学部と基幹理工学部の3つの研究室が “Grayscale” をテーマに現代の様々な事象の間をメディアアートにより表現する共同展示がはじまる。デジタルテクノロジーの進化で1つの事象が白黒に分断されつつある世界の狭間を、“Grayscale” としてメディアアートにより表現する。この展示テーマの意味や、キーワードを草原真知子教授、橋田朋子准教授、ドミニク・チェン准教授に聞いた。

INDEX

  1. 「隙間」に内包される創造性
  2. 新しい価値を「作れない」という思い込み
  3. 「っぽい」の中間を志向する

「隙間」に内包される創造性

千々和:本日は2017年の研究の共通テーマであり、今回の展示のタイトルにもなっている「Grayscale」についてお話をお聞かせ頂きたいと思います。まず、今回のテーマである「Grayscale」に着地するまでの経緯をお伺いする前に、普段それぞれ別の研究をされている草原先生・橋田先生・ドミニク先生の3つのゼミの今年度のキーワードについてお聞かせください。

橋田:では私のところから…(笑)。簡単に説明すると、ある方が私の研究を「隙間をつくる道具の研究だ」とおっしゃられたんです。もともと、人の知覚や認知の隙間に注目したり、本来の用途と違った使い方ができるような人工素材や物理現象の隙間をいつも探していて、そういった「隙」をついた道具をこれまで作ってきたんですね。さらに早稲田に入ってからは、ゼミの学生が「インタラクションの成立に隙間がある道具」をいろいろと作っていて。最近でいうとディープラーニングなどでもそうですが、間違いを吐き出す機械が多くなってますよね。間違いは本来のユースからすると良いものではないのですが、それが逆に機械の創造性や自律性のように見えておもしろいんです。そうした最近の「隙間があるインタラクション」に去年あたりから興味が出始めて、機械の間違いや、自然現象の偶発性みたいなものなども含めて、「隙間を生み出すもの」をもっと積極的に考えて作る方向に向かってもいいんじゃないかなと。こういうことが重なって、今回の「Grayscale」というテーマを学生たちが生み出したきっかけになったと思ってます。

ドミニク:ここで表現される「隙間」って、「あそび」や「余白」も内包する感じですよね。

橋田:そうなんです。これまでは分析すると「結果的にそうだった」ということが割と多かったのですが、今回は逆にテーマを先に掲げて、隙間をつくるデバイスやインターフェースを軸に発想したらどうだろう?と考えたらしっくりきましたね。

grayscale1

ドミニク:橋田先生の研究ってすごく詩的ですよね。橋田先生は東京藝術大学で楽理を学ばれた後、東京大学の学際情報学府に入られて、そこで僕と同じ苗村健先生の研究室だったのですが、余白が少ない工学系の世界の中で、とてもポエティックなアウトプットをされているなと当時から思っていました。

橋田:岡田美智男さんが合目的的じゃない「弱いロボット」を作られてますよね。先日一緒に講演させて頂いた時、私の研究も常にインターフェースでそういうところに通じていたらいいなと思っていて。隙間をつくるデバイスって、もしかしたら目的が明確ではないからこそ作れるものなのかもしれませんよね。そういう部分を引っくるめて2017年のテーマにしています。

草原:私のゼミでは毎年のテーマというのは決めていませんが、私自身が最初は生物学専攻だったということもあり、キーワードのひとつが「バイオダイバーシティ(生物多様性)」、もう1つはブリコラージュ(Bricolage)*1なんです。そういう背景もあって、ゼミではそれぞれの個性を持っている学生たちに、その多様性を持ったまま、グループでそれを収斂させて何かを作り出すといった創作をしてもらってます。彼らは工学系ではないので新しい技術は開発できないけれど、ブリコラージュでなんとか目的を達成します。最初に持っているイメージはみんな違っていてもどこかでつながるところを見つけて、それぞれの持っているものを生かして作品を作りあげるためには、「読み替え」や「発想の自由さ」が必要になるということを理解してもらうのもグループ制作をする理由の一つです。 そういえば、私のゼミの学生たちがかなり中心になって作っている学科公認の『xett(セット)』という雑誌の2016年度のテーマが「隙間」だったんですよ。

ドミニク:へぇー!みんな「隙間」を求めているんですね(笑)

草原:先日、写し絵と錦影絵という江戸から明治の幻燈文化*2についての研究会があったんですね。実は西洋と日本の幻燈の違いっていうのがあって、西洋の幻燈はどっしり重く、据え置きで、後にそれが映写機に発展するわけです。映画というのは完成したパッケージを見るものですよね。一方、風呂と呼ばれる日本の幻燈機は木で作ってあって「隙間」があるんです。西洋の幻燈との違いの一つはその「隙間」にあって、例えば同じスライドを差し込んだ時に、西洋の幻燈はしっかりはめるためにバネまでつけているのに対して、日本の幻灯はスライドを入れるところにわざと隙間を作ってるんです。その隙間でスライドを揺り動かして、感情の揺らぎを出すんですね。たとえば、泣いているような感情的なシーンは、細かくスライドを揺らすことで肩が震えているように見せたり。これを実演されてる方は「この隙間があるから我々は2時間、3時間の劇が作れるんです」とおっしゃってます。 スライド自体も動かすけれど、この微かな隙間が感情を出すのに大事なんだそうです。日本にはあそびの文化があるっていわれますね。そして、先ほどから話されているように機械にもあそびがありますよね。そのあそびがあることで思いもかけなかったような効果にめぐりあえたりする。幻燈の話になってしまいますが、そういった隙間ひとつ取ってみても、西洋的な「技術の捉え方」と日本的な「技術の使い方」の違いが出てきておもしろいねっていう話をしたんです。

———————–

*1 ブリコラージュ:フランス語の「bricoler」(つくろう・ごまかす)に由来し、通常は「器用仕事」と訳される。理論や設計図に基づいてではなく、ありあわせのものから試行錯誤を繰り返して新しいものを作るプロセスのこと。理論や設計図に基づいてではなく、ありあわせのものから試行錯誤を繰り返して新しいものを作るプロセスのこと。

*2 幻燈:あるいは幻灯とも。現代のプロジェクターの原型ともいえる、写真フィルムや図版などを1枚ずつ強い光を当てて、前方に置いた凸レンズで拡大した映像を映写幕へ拡大して投影する装置。光源にはろうそくやランプ、ガス灯や電灯が用いられた。17世紀頃より西欧で発明され、18世紀には日本に伝来。映画以前の時代に流行した。

———————–

新しい価値を「作れない」という思い込み

ドミニク:多様性とおっしゃいましたが、先日発酵デザイナーの小倉ヒラクくんや編集者の塚田有那さん、アーティストの市原えつこさんと話していて、実は僕たちは草原チルドレンだよね、と(笑)。互いに多様性があってみんな違うんだけど、相通じる志向性があるように思えますね。

千々和:志向性という意味では小倉ヒラクさんはドミニクさんと通じてるものがありますよね。

ドミニク:はい、彼との新しい共同プロジェクトも始めているところですね。気がついたら草原先生の手のひらでみんな踊ってる感じです(笑)。草原先生自身が多様性を表すグレースケールなのかもしれませんね。

grayscale3

草原:進学するのに理系か文系で迷ったような人たちが、結局私のところにいらっしゃる。

ドミニク:そういう意味では我々もグレースケールでした(笑)。

千々和:橋田先生と草原先生のお話だけでも、研究テーマの共通点があるというのが分かりますが、ドミニク先生のゼミはいかがですか。

ドミニク:ここまでのお二人のお話で充分な気もしますが(笑)。私のゼミは2017年4月に立ち上げたばかりですが、文系の文化構想学部の中で、何ができるかという可能性を広げようとしていますが、まだまだ試行錯誤してますね。「テクノロジーを詳しく知ることで頭の中に制約を設けてしまう」のではなく、そのテクノロジーから予測できるものを吹き飛ばすことでもあり、夢想的なアイデアも含めて、そこから「こうなってほしい」といった個人個人の願いから発想することができれば、非常におもしろいことができるなと思っています。
さっき合目的的じゃない「弱いロボット」の話題が出ましたが、「効率をいかにあげるか」「いかに制御するか」という合目的的な発想とは別の考え方がこれからの情報社会で一番大事になってくると考えています。なので、理系/文系の差異を強調することをやめて、それぞれが得意なフィールドをどうつなげていくかという議論が生まれるといいですよね。学生には社会というマクロな視点からアウトプットを考えるのではなく、等身大の当事者として、自分に本当に必要なものを深掘してもらってます。そこからどういう提案が練られるのかを突き詰めようとしているのですが、それが日常的なプロダクトになっても、言語化しづらいアート表現のようなものでも、どちらでもいいと思っています。日常と非日常の境界領域もグレーになってきているから。
この間も、Twitterをリミックスするというワークショップをやったのですが、参加した学生たちに「Twitterでも自分の手で変えられるんだ」という気付きが芽生えたのが面白かったですね。というのも、今普通に使っている LINE や Twitter、facebook を昔の電話回線のような不変のインフラだと思い込んでいるところがあったので、このワークショップでは実際は「新しいものは常に作り続けることができる」という気付きを支点にして、まだ言語化されてない価値を自分たちで作っていく経験ができましたね。その気づきさえ生まれれば、後は理系も文系も関係なく、触れる人を活性化させられるものが作れるようになると思います。

千々和:情報技術が言語化を加速させると思われがちですが、逆に「言語化されてない価値を見つけよう」というプロセスはおもしろいですね。

「っぽい」の中間を志向する

千々和:お話を伺ってきて3つのゼミの研究テーマが「Grayscale」に集約されていく流れが見えてきましたが、もともとこのテーマは学生さんたちが提案されたとか?

橋田:この企画展を構想するにあたって、学生たちと草原先生とドミニク先生が研究していることを分析して3つのゼミに共通していて、尚且つおもしろいキーワードを出し合ってみたんです。その中で、最近は「っぽい」ということじゃないかと話が出てきたんです。「っぽい」というキーワードはネガティブにとらえられることがありますが、ポジティブにとらえ直して研究したらおもしろいんじゃないかと。そこで「っぽい」をポジティブに捉えるということからさらに「グレー」というワードが導き出されましたね。

千々和:そこから Grayscale に発展したということですね。

ドミニク:それを聞いたとき、とてもいいなぁと思いました。僕もクリエイティブ・コモンズという、著作権の保護(コピーライト)と開放(パブリックドメイン)の間のグラデーションをつくる活動をしてきました。そこから、いろいろなことの中間層を作っていくという意識で活動してきたので、個人的にもドンピシャという感じでした。

橋田:キーワードが決まって、先生方にお伝えするためにそれらに近い事例を集めたんですね。そこで、ドミニク先生のクリエイティブコモンズ*3 が出てきて、そして草原先生のダイバーシティやアート、デザインの事例を元に構想して、ようやくまとまってきたんです。私のゼミに所属する学生たちが草原先生とドミニク先生の授業を聴講していて、私が「今年も展示をやるよ」と言ったら、先生方も展示をやられるのになぜ橋田先生は一緒にやらないのかと言われて。確かに、一緒にできたらおもしろいことになりそうだなと思って先生方にご相談させていただいたんです。

千々和:この企画自体が学生さん主導だったのですね。

橋田:学生たちは軽いフットワークで学んでいるので、いろいろなラボの共通点を知ってましたね。

ドミニク:もともと草原先生のゼミを橋田先生のゼミの学生たちが聴講していたんですよね。橋田ゼミの学生たちが草原ゼミの学生対象に工作ワークショップを開いたり、普段の理工ではやらないようなことまでも、知的欲求に導かれて学生たちが縦横無尽に学んでいて驚きましたね。

grayscale6

草原:私のゼミの学生がダンスパフォーマンスにプロジェクションマッピングをしたいと言っていたんだけど、学生ひとりでは技術がないから叶わないわけですよ。でもひとつのゼミでできないことが、ふたつのゼミになるとできるようになる。

ドミニク:共同で指導しているような感覚ですね。

千々和:学ぶ気持ちが横のつながりを生んで、そこからテーマが生まれ、学生さんが主体的に「これは一緒にできるな」という思いとともに “Grayscale” という言葉がマッチした流れに必然的なものを感じます。

ドミニク:去年の TOKYO DESIGN WEEK で橋田ゼミの展示を拝見させてもらって、とても感銘を受けたこともあって、ぜひ橋田先生に関わっていただければと思っていたんですよね。

橋田:私は外で展示するノウハウはあったのですが、コンセプトをテキストでまとめたりタイトルといった思いの部分を言語化するのは弱いところなので先生方と一緒にやることでとても助けられました。それだけでなく、先生方とディスカッションさせていただくと、技術的なおもしろさにとどまらない広がりのある展示ができると思うので、今回の展示はとても楽しみです。

———————–

*3 クリエイティブコモンズ:著作物の適正な再利用の促進を目的として、作品を公開する作者が「この条件であれば作品を自由に使って構いません」という意思表示ができるようにするための様々なレベルのライセンスを策定、普及を図る国際的非営利組織と、そのプロジェクトの総称。クリエイティブ・コモンズが策定したライセンスは「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」と呼ばれる。

———————–

『いま、「グラデーション」でものごとをつなぐ意味 後半』はこちら

 

■早稲田合同作品展示「Grayscale」

本インタヴューの “Grayscale” をテーマにしたメディアアート展は以下のページをご覧ください

早稲田合同作品展示「Grayscale」詳細ページ

2月9日には草原教授、橋田准教授、ドミニク・チェン准教授によるトークイベントを開催いたします(近日申し込み開始予定)。

amu

未来を編む

「デザイン 」「アート 」「ライフ 」「学び 」 関連の記事を
もっと読む